2024
PROJECT01 | 山と人 隊員活動レポート
佐賀の低山の魅力を伝える「低山トレッキングガイド見習い」として、この3年間、県内の山々を登ってきた天野貴博さん(以下、天野さん)。同じ山でも、季節や天候、一緒に登る人が変わると、楽しみ方も変わるんだそうです。豊富な知識を活かし、いろいろな場で、なくてはならない存在になってきました。
県内にある代表的な山は一通り登ったという天野さん。一番多く登った多良岳では、「多良岳を愛する会」のメンバーとしてガイドも担当しています。安全な登山のために、今年も会のメンバーに向けた勉強会を開催しました。
天野さん(以下、天野) 多良岳はガイドやプライベートで月に2〜3回登っていますが、飽きずに楽しめます。ガイドのときは、旅行会社時代の先輩に言われた「自分にとっては何百回目でも、お客さんにとっては1回目ということは忘れちゃいけない」という言葉を思い出して、毎回フレッシュな気持ちで案内しています。
今年の7月にも「多良岳を愛する会」のメンバーを対象に勉強会を開催しました。より発展的に「人を連れて行くってどういうことなんだろう」ということを考えてもらうために、1日目は山に入って僕のガイディングを体験してもらってから座学を。2日目は勉強したことを活かして、実際に山を登りながらガイド役をしてもらい、僕が気づいたことをフィードバックしました。この勉強会を機に会のメンバーの意識が変わってきて、ガイドとしての自覚はもちろん、登山者としてもレベルが上がったと感じました。夏と冬など季節が変わると気をつけることや持っていくものも違うので、最低でも年2回ぐらいは勉強会をやっていくことが必要かなと思っています。
3年間の間に天野さんも地域の皆さんもたくさんのことを学び、さらにパワーアップした様子。
天野 「多良岳を愛する会」として、地元の小・中・高校生を山に連れていく“教育”が、一番大切なんじゃないかというところに落ち着きました。学校登山は人数が必要なので、卒業後も学校登山にはなるべく継続して参加するようにしたいなと思っています。地域から「登山を観光のコンテンツにしてはどうか」という話も出ているので、要望がある場合はガイドとしても携わりたいですね。
登山は油断すると命の危険もあります。だからこそ常に情報をアップデートして危険に備えている天野さん。情報を仲間とも共有することで、全体のレベルアップにも貢献してきました。
毎月開催されている「天山の自然を守る会」の植物調査にも同行してきた天野さん。天山に自生する植物の状態をモニタリングし、希少な植物の保護や登山道の整備にも携わってきました。標高約1000mの低山で活動したことで、いろいろな気づきが得られたそうです。
天野 「天山の自然を守る会」では、自然を守っていくことの大切さと大変さをすごく教わったというか、一緒にやりながら感じました。毎年夏に登山道整備をやっているのですが、今までは「こうやるよ!」と言われて「わかりました!」と返す感じだったのが、登山道の保全の勉強会に参加してから、登山道の見え方が一気に変わって。それから、「ここどう思う?」みたいな、相談してもらえる間柄になってきて。元々自然環境に対して敏感な方たちだから、ちょっとずつ「そういう考えもあるんだね」と分かってもらえてる部分なのかなと。
天野さんの物腰の柔らかさがあるからこそ、新しい知識や出来事も柔軟に受け入れてもらえているのかもしれません。
天野 天山の山頂部分の笹刈りを毎年やっているんですけど、その成果がすごく顕著に出たんです。2年前に笹を刈ったところの休眠していた種が、環境が良くなったことで、今年の秋に花をつけたんです。僕も知識としてはあったんですけど、それを実際に体感できたのはすごく良い学びになりました。
会の平均年齢が50代〜60代なので、「天野君がいなくなったらうちの会は終わるから」って言ってもらっています(笑)。今後新しい人をどう取り込んでいくかみたいな話もしていて、例えば地元の高校生や山岳部に「調査するときに来ませんか」って会のことを知ってもらう機会をつくったり。初めてでも、花の話をしながらゆっくり天山のことを知ってもらうという活動自体は毎月やっているので、いろんな人に伝わって欲しいですね。
登山を安全に楽しめるのは、その歩道が整備されているから。当たり前のように登っていましたが、影で支えてくれている人たちの継続的な取り組みがあることに、天野さんの活動を通して気づくことができました。繊細な山の植生を維持するために、天山の植物調査に参加してみるのも面白そうです。
登山はもちろん、佐賀のほどよい自然を活用したアクティビティ「レジャートライアスロン」、略して「レジャトラ」も新たな可能性が芽生えてきました。協力隊卒業後も佐賀に残っての活動を予定している天野さんに詳しく聞いてみましょう。
天野 フットパスや登山、カヌー、サイクリング 、この3つのレジャーを連続しながら地域を巡る「レジャトラ」で、僕はサイクリングのガイドとして携わってきました。面白いアトラクションなので、新たなコンテンツとして確立できるように動いています。今は協力隊としてお手伝いしていますが、佐賀に残ったときに一つの仕事としてガイドも受けていきたいですね。
僕の中では協力隊として移住して来たときから、佐賀に残る決心でいました。途中から入ってきて、いろんなことをやらせてもらっているので、先にやってきた人たちの気持ちがまず大事。何かで角が立って居づらくなるのも嫌だし、嫌だと思われないように気をつけようって。チームとして迎え入れてもらって、それこそ意見を聞かれるまであんまり言わないぐらいの方がいいかなと思ってきました。1年目からずっと続けてきた「多良岳を愛する会」、「天山の自然を守る会」、「レジャトラ」では右腕になれたかな(笑)。
山、川、海、人を3年間かけて繋げてきた天野さん。すっかり地域の皆さんの頼れるパートナーです。
天野 低山の多い佐賀で協力隊をやれて、初心者に優しい佐賀の山の魅力と、僕のもっているものがちょうどヒットしましたね。なんでもない風景が面白いって思える。そういうところにもっと光を当てて、ゆっくり楽しもうよっていう感覚が佐賀にはすごい合っているし、僕もそういう佐賀の魅力を教えてもらったなと思います。
隣の福岡に5年ぐらい住んでたのに、佐賀のことは何も知らなかった。これは逆にもう佐賀の人が知られないように意図的に隠してるんじゃないかと思うぐらい(笑)、めちゃくちゃ面白いもので溢れていて。
僕は子どもたちに佐賀の自然を知ってほしいので、それを仕事にできたらいいなと思っています。多分、お父さんお母さんが自然の中での遊び方を知らないと、子どもも遊び方がわからないと思うので、「佐賀でこんな遊びできるよ!」っていうのを発信していきたいですね。
佐賀の自然にどっぷり魅了された天野さん。まだまだ隠されたアクティビティの原石がありそうです。楽しさを伝えていくことで、佐賀に暮らす人はもちろん、佐賀に足を運ぶ人が増えてきそうです。
※この記事は2024年10月取材時点のものです。
取材・文 眞子紀子
追記
天野さんは2025年3月末に任期を満了され、SML(佐賀県地域おこし協力隊)を卒業されました。卒業後は、記事中にあるように佐賀へ定住し、就職先でアウトドア関係の仕事をされつつ、プライベートではガイドの仕事も続けるそうです。佐賀の山に頼もしいキーパーソンが生まれました。今後の活躍からも目が離せません!
天野さん、3年間お疲れ様でした。