PROJECT03 暮らしと交通

新しい公共交通へ。 地域と一緒に組み立てる

佐賀県庁 さが創生推進課
くらしの移動手段確保推進担当
係長 山下嘉子さん
主査 宮﨑透さん

取材・文:いわたてただすけ

PROJECT 3

バスや電車に乗って出かければ、毎日は小さな旅の連続。どんな出会いが待っているのか、どんなできごとが起きるのか。私たちは少し、ワクワクしているはずです。しかし、地域には、家を出て、町へ出ることに、大きな苦労や負担をともなう人がいます。買い物や、友だちと会うことにさえも億劫になってしまう人がいます。誰もが移動を楽しめるように。地域の公共交通は、新しい仕組みへと、変化する必要に迫られています。

今回、佐賀県庁さが創生推進課が募集する地域おこし協力隊は“くらしのモビリティサポーター”です。ミッションは、「くらしの移動手段」をもっと便利に、もっと快適にするために、「各々の地域にあった移動手段ってなんだろう?」を地域と一緒に考え、組み立てるお手伝いをすること。

コミュニティバスなどの地域の公共交通は、移動手段の確保だけでなく、その地域をいかに元気にするかという「まちづくり」の視点も必要です。地域の方々が安心して住み続けられるように、地域のニーズにあった移動手段を地域と一緒につくりあげていく。そういった、その地域ごとに最適な仕組みづくりを一緒にサポートしてくれる方を求めています。

車で行くことしか選択肢を持てない

「都会での移動」に慣れた人は、地域の移動手段の少なさに戸惑うことが多いかもしれません。まずは、何が課題か。どう変えていきたいか。情報を整理する必要がありそうです。県の交通の現場について、担当職員の山下さんと宮﨑さんに話を聞いてみました。

山下さん(以下、山下) 地域社会の課題のひとつとしてよく知られているのは運転免許証の返納に関する問題です。高齢者による事故が増えてきて、今後、佐賀県も高齢者の自主的な運転免許証の返納が進んでいくことが予想されています。しかし、免許を返納してマイカーを手放してしまうと、これまで自由に移動できるのが当たり前だったところから、たちまち通院や買い物などの日常生活の移動をどうするかという問題に直面します。そうなると、必然的に、返納を躊躇される方も多くいらっしゃるのが現実です。

宮﨑さん(以下、宮﨑) 都会に住んでいる方であれば、どこへ出かけるにも、電車、バス、自転車...と選択肢は豊富だと思います。それが地方、特に山間部では自家用車で行くことしか選択肢を持てません。というのも、バス停や駅まで歩くことが大変だったり、バス停まで頑張って歩いても、運行本数が極端に少ない。ちょっと町へ出かけるだけで1日がかり。これでは、なかなか、気軽に自由に移動するというわけにはいきません。

山下 だから高齢者の方々もギリギリまで運転するんです。ドア・ツー・ドアで移動できるマイカーを断念するときには、バス停まで歩くのも難しい状態になっています。こういう現状の中で、高齢者の方々が安心して地域で暮らし続けるために、免許を返納しても日常生活の移動に困らないような新しい交通手段が求められています。

宮崎 高齢者だけでなく、子どもたちの行動にも制限があると思います。都会と比べて、地域の子どもたちは明らかに公共交通機関に乗り慣れていません。通学や部活動も、自家用車での親の送迎に頼っていることも多く、その場合、寄り道もできません。そうなると子どもたちの行動が制限されてしまいます。この状況を、ポジティブな方向に変えていきたいわけです。

大分県竹田市の地域おこし協力隊だった宮﨑さん。協力隊と行政どちらの立場にも共感できる頼れる存在です。

車がなくても生活しやすい佐賀県にしていくこと。地域の人々が安心して地域に住み続けられること。そのために何ができるのかを山下さん、宮﨑さんと一緒に考えていくことが、地域おこし協力隊のミッションとなります。生活と密着している移動手段という課題だからこそ、地域住民の方々に喜んでいただくアイデアは無数に湧いてきそうです。

その地域にしかない「新しい交通」を、パズルのように組み立てていく

では、どんな交通手段があれば、高齢者も若者も、自由に外出できる地域が生まれるのでしょうか。山下さんと宮﨑さんがこれまで取り組んできたテーマが、「地域交通の最適化」。行政と交通事業者、地域住民が一体となって、地域のニーズにあった移動手段を作り上げていく取組みです。

山下 例えば、町全域をカバーして均一に運行しているコミュニティバスがあったとします。それを利用状況や要望をふまえて、病院や商業施設がある町の中心部はコミュニティバスの運行本数を増やし、一方で利用が少ない周辺部は予約があった時だけ運行するデマンド型のタクシーを導入したりします。複数の交通手段をかけ合わせて、ムダのないやり方を考えていくのが地域交通における一般的な考え方です。また、これは「輸送資源の総動員」という考え方なんですけども、たとえばスクールバスや病院の送迎、地域が主体となって運行する自家用有償旅客運送など、地域にある「移動のための資源」を総動員して、地域の移動手段を確保していくことも考えられます。

宮崎 もちろん、新しい形態に変えていくということだけではなく、今ある地域交通を利用してもらう取組みも大事にしています。コミュニティバスが町中を走っているのは見かけるけど、どこに行けるのか、どうやって乗ればいいのかがわからないという方も実は多いんです。結果、移動手段として認知されていない...。こういう方にも一度地域交通を利用して乗ってもらって、体感してもらい、コミュニティバスを日常使いするリピーターを増やしてきたいです。 全国的な例でいくと、コミュニティバスを使ってもらうために街中でビアガーデンを開催して、バスに乗ってきたら割引ですよとか。商工関係の人と繋がって、人のにぎわいを実現できている地域もあります。地域の移動がスムーズになれば、商業的な活性化はもちろん、観光、教育など、幅広い領域に良い影響が広がります。高齢者の方には、介護予防の一環として、おでかけの機会をつくって家の外へ出かけていただく。こういうことも、福祉関連の部や課などと連携して進めていきたいですね。

いつも穏やかで優しい山下さん(左)地域交通への真摯な想いと地域の方へ溢れるリスペクトがとても素敵です。

山下 私たちが「地域交通の最適化」の際に大事にしている視点は、その地域が必要としている、その地域にあった地域交通はなんだろうと考えることです。予約型のデマンドタクシーは、効率的に運行できる反面、高齢者にとっては、予約が煩わしかったり、利用の仕方がわかりにくいなどの問題もあります。通学や通勤の利用ニーズがあるかどうかによっても、運行時間や車両の大きさなどが変わってきます。その地域にあった地域交通をつくり上げていくために、行政や交通事業者、住民が一緒に知恵を出し合い、パズルみたいに組み上げていくような作業が必要だと思います。その地域にあった、その地域ならではの地域交通をつくれたらいいですよね。

同じ佐賀県の中でも、住むところが違えば地形も人口密度も年齢層も異なります。住民ひとりひとりのライフスタイルも違うでしょう。どの地域にも当てはまる正解の交通手段はありません。その土地に合わせた最適化というのが本当に大切です。そのためには、民間事業者と自治体の二者だけでなく、そこにユーザーである地域住民の方が自ら議論にも運営にも参加していただく仕組みが必要。...その三者間を繋いで、円滑なコミュニケーションをうながす接着剤的な役割を担うのが、自治体の人間でもあり地域住民の目線で取組む“くらしのモビリティサポーター”、というわけです。

当たり前の日常をささえるのが地域交通

地域おこし協力隊として過ごす1~3年目の業務内容は、おおまかに次のようになります。

1~2年目交通に関する知識や県内の地域交通の状況等を学んでいくとともに、市町や地域との関係づくりを行う。具体的には...

・各市町で開催される地域公共交通会議や再編協議等への出席
・移動手段に関するヒアリング調査、アンケート調査、コミュニティバス等の乗降調査など
・各市町にある既存の地域交通の利用促進に関する取組み・地域交通に係る潜在ニーズの掘り起こし

2~3年目
・地域住民や地元事業者等を巻き込んだワークショップや検討会の開催
・ワークショップや検討会で話し合われた内容について、地域や事業者等との調整を行いながら実現化に向けてサポート
・県が調整した特定の地域以外でもアドバイス、ワークショップや検討会の開催、取り組みの実現等を実施

まずは、課題を知ること。人を理解すること。その先に、「地域交通の最適化」についての提案を考える2~3年目となります。

山下 1年目は、私と宮﨑と、3人で行動することが多いと思います。まずは県内の市町の交通担当職員の方々、地域住民の方々と幅広く触れ合って知見を深めて、続く2~3年目には特定の地域に重点的に入っていただきたいと思っています。かと言って、2~3年目以降はひとりぼっちでということではありません。私も宮﨑も、交通を通してやりたいことがいっぱいありすぎて...できれば、これから“くらしのモビリティサポーター”として着任されるあなたと3人で、一緒に事例づくりに取り組みたいです。目指すのは、他の地域にも参考にされて、県外でも話題にされるような新しいモデルケースです。

宮崎 実は自分も、もともと大分県の地域おこし協力隊でした。それから佐賀県庁で働くことになって。いろんなお仕事を担当させてもらいましたが...地域の交通を考えている今が、とてもやりがいを感じています。正解がなかったところにゼロから仕組みを想像できるところ。交通を通じて、県民の営みのすべてに関われるところ。新しいことができそうな予感がして、ワクワクしています。私たちの仕事に、退屈なルーティンはありません。人に会うこと、地域を知ることが、そのまま仕事にも繋がります。

山下 私は、プライベートでもよく公共交通を使ってますね。日本酒が好きで、県内の酒蔵さんまで行って試飲して、でも公共交通機関で帰るから大丈夫、みたいな。ガニ漬けをつまみにしながら...あ、ガニ漬けって有明海産の小さいカニを潰して塩漬けにしたやつなんですけど、日本酒の肴に最高なんですよ!佐賀の美味しい時間を一緒に行動してくれる方は大歓迎ですね。

宮崎 交通の仕事をしていると、佐賀県の隅から隅まで移動することになります。自分たちが出張で県内を移動するときも、公共の交通機関を乗り継いで移動するようにしています。一日がかりになる往復も多いですが、車窓の外をぼーっと眺めるのも幸せだし、このバス、この電車に乗ったからこそ知ることのできる地域の実情があります。募集内容と矛盾するようですが、不便だからこそ出会える、そんな地域社会の魅力も存分に楽しんでいただきたいですね。

買い物する。美味しいものを食べる。楽しいイベントに参加する。誰かに会いにいく。私たちが当たり前のように過ごす日常は、実は「交通」が正しく機能していることが前提で成り立っています。高齢者も若者も、地域に暮らすすべての人が、元気に外出できるように。新しい体験と出会えるように。くらしのモビリティサポーターとして活躍するあなたの、ご応募をお待ちしております。

取材・文:いわたてただすけ

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