2023

PROJECT03 | 暮らしと交通 隊員活動レポート

地域交通を「ジブンゴト」として考えると、誰もが暮らし やすい町につながる

木村瑠々花(きむらるるか)さん | 2023年度

マイカーの代わりとなる交通手段にバス、電車、タクシーがあります。さらに地域に根ざしたものではコミュニティバスや予約型の乗合タクシーなど。最近は住民主体の移動手段も出てきています。木村さんは多角的な視点に立ち、さまざまな交通手段をひっくるめて、そこに暮らす皆さんと一緒に最適な「くらしのモビリティ」を考える伴走者です。交通手段としてだけでなく、暮らしがもっと快適で楽しくなる移動について考えてみましょう。

公共交通を利用して出かけたら笑顔とにぎわいが広がった

公共交通が充実した神奈川県から車社会の佐賀県に移り住んだ木村さん。ジェットコースターのように激しく揺れる路線があったり、無人駅でひたすら電車を待ったりと、佐賀の交通を利用するときは寛大な心をもって、時間がかかっても楽しんでいると笑顔で話します。地域交通の利用促進に取り組んだ1年目、基山町の生活支援コーディネーター(以下、SC)さんとの取り組みのその後を伺いました。

木村さん(以下、木村) 私が担当しているのは、路線バスや電車とは違って、基本的に「コミュニティバス」や「予約型の乗合タクシー」など地域の生活に密着した地域交通です。

「くらしのモビリティサポーター」は、その地域に最適な交通を地域のみなさんと一緒に考えていくことが仕事です。移動手段がない交通空白地や、何らかの交通手段はあるけど、ニーズと時刻表がマッチしていないとか、路線図が見づらいとか、何かしらの課題があって困っている地域に対して、大きく分けて2つのことに取り組んでいます。1つは利用促進のサポート・既存の交通を活かしていくこと。もう1つは新しい地域交通を生み出すサポートです。

地域交通において県域で活動する地域おこし協力隊としては、市町がしっかりと自走できる形をサポートできるように心がけています。その考え方をもとに、市町単位でのキーパーソンをまずは地域で探します。そのキーパーソンがSCさんという、高齢者の生活支援や介護サービスの円滑な利用を促すために、地域の中で関連機関との調整になっている方だったり、自治体の交通担当さんだったりします。SCさんは自治体の福祉課などに配属されていることが多く、別名「地域支え合い推進員」と呼ばれることもありますね。

積極的に地域に入って活動する木村さん。

木村 1年目は、まず利用促進に注力しようと思い基山に入りました。基山のSCさんが移動のことも熱心に考えてくれて、基山の中で、くらしのモビリティーサポーター的な存在になってくれています。企画してくださったコミュニティバスを使ったイベントでは、地域の人とのつながりが薄い私では呼べないような、運転免許を返納したけどコミュニティバスに乗ったことがない町民さんなども参加されています。

イベントでは、コミュニティバスに乗る体験をしてもらうだけでなく、その中で立ち寄れる商店街でランチをしたり、町内の面白い施設に全員で見学に行ったりします。新鮮な体験をすることで、いつもより身体が元気に動いたり会話が弾むだけでなく、地域の経済が循環するきっかけになります。地域交通の利用促進は、実は交通と福祉の話だけに収まらず、経済効果など別の面からも複合的に効果があると考えています。できるかぎり多分野での横断的な連携が実現するともっと地域交通が活かされると思います。

中心的に動いてくださっているSCさんは、チームの中で新たに「買い物・移動手段担当」として役割が明確化されたと伺っています。このようにつながってくると、交通担当と福祉担当が協働するフェーズに入ってきており、私自身がそこまで積極的にサポートに入ったり、間に入らなくても地域交通に関する対話が始まっている状態です。今は定期的に情報共有をする場を設けてもらい私も参加しながら、一歩うしろに立って見守っている状況です。私もSCさんに相談したり、相談してもらったり、そのような関係性を築いています。地域内の皆さんが主人公となり地域交通が自走できる状態を生み出すことが1年目の目標だったので、SCさんや皆さんの力のおかげで目標をクリアできたと感じています。

今まで地域交通に乗ったことがなかった人も乗り方が分かれば、また使ってみようという発想が生まれます。地域交通の利用促進にはキーマンとのつながりが重要なようです。

わかりやすくまとめられた木村さんのお仕事を説明する資料。イラストや写真も多く、とっても見 やすいです。

新しい移動手段の立ち上げに必要な視点と手法をサポート

2年目は、吉野ヶ里町で既存の公共交通を守りながら、住民主体の新たな共助交通の立ち上げをサポートしている木村さん。どんな関わりをしているのでしょうか?

木村 SCをされている皆さんは、住民さんとのコミュニケーションを丁寧にされており、地域活動のサポーターとして活躍している方が多いです。1年目から一緒に活動している基山のSCさんをきっかけに佐賀県内のSCさん向けの研修会で移動をテーマに話題提供をさせてもらいました。そこから、他の地域のSCさんにも個別で相談してもらえるようになったり、地域交通に向き合ってくださるSCさんが増えています。最近では市町の交通担当にSCさんを紹介するなど、連携のきっかけを促しています。今は7人くらいのSCさんと定期的に情報交換をしています。その中で吉野ヶ里町のSCさんから声をかけていただき、吉野ヶ里町の住民主体の共助交通の立ち上げに携わるようになりました。

令和4年9月に、社協さんが主催で「よりよい吉野ヶ里町について考える未来創造講座」を開催したそうです。講座の中で、参加者によるグループワークがあり「送迎ボランティアの必要性」についての課題があがったと伺っています。そこから住民主体での新たな移動手段をつくるために「あしすと会」が生まれました。私が「あしすと会」の話し合いの場に参加させていただいたタイミングですでに1年にわたって、勉強会を開催したり視察したりしながら、話し合いをつづけてきたそうです。メンバーは、役場の交通担当の方や、同じく役場に所属しているSCさん、社協さん、それから住民さんと色んな立場の人が集まっていて毎回10名くらいのメンバーの方が話し合いに参加しています。

話し合いの場づくりも大切なしごと。話題が尽きずに盛り上がります。

木村 実は、「あしすと会」が立ち上がってしばらくしてから、AIシステムが入った新しい乗合型デマンドタクシー「よしくる」というサービスが始まりました。予約をしたらデマンドタクシーが来てくれて、町内のどこにでも行けるようになり、すごく便利になりました。住民主体の話し合いが立ち上がったときは、予想していなかった展開だったので、話し合いの方向性を少し改めました。「よしくる」という新しい公共交通の利用促進に合わせて、それでも移動に困っている住民さん向けに住民さん同士の助け合い、つまりは共助の交通というような形で何かできたらと皆さんと考えています。

「よしくる」という便利な交通ができたとしても、1つの仕組みだけですべてをまかなうのはなかなか難しいです。もちろん「よしくる」ができたことでかなり便利になったので、助かっている人がたくさんいます。そのうえで、「よしくる」だけではカバーできない、そもそも予約が難しい人や、荷物を運ぶのが大変な人、歩行に時間がかかることでみんなに迷惑をかけちゃうんじゃないかと心配して移動手段を選べない人などに向けて、住民の互助・共助でまかなっていく仕組みができたら誰もが暮らしやすい町になりますよね。ボランティア側も負担に思わないような形でできたらベストです。

そのためには「公助・共助・自助のバランスが大切ですよ」という話をいつもしています。その上で、地域の課題と理想を整理すること。質を重視したニーズ調査を行うこと。サービスの内容を検討して、仕組みづくりや財源確保の方法を検討すること。このようにステップを丁寧に踏んでいきます。この過程ではいろんな立場の人と対話していく必要があります。「あしすと会」の場合は、定期的にSCさんと相談をしながら、どう調整をしていくのか一緒に検討しています。

吉野ヶ里の地域交通「よしくる」。予約すると行き先に合わせてAIシステムが配車してくれる仕組みになっています。「よし くる」という素晴らしい仕組みができたからこそ、さらにできることがあるはず。

木村 みんな思っていることは様々だと思うんですけど、共通しているのは、本当に移動に困っている人のために頑張りたいという気持ち。「よしくる」でもまかなえない人向けの新しい地域交通を、まずは実証実験したいですね。例えば町外の病院に行きたいときは、片道はボランティア運送を活用して、帰りはタクシーで帰るとか。

もしかしたら、「よしくる」が便利だから、それでいいじゃんっていう風になっても、それはそれで皆さんが暮らしやすいなら正解だと思うし。新たな選択肢が生まれたら、もっといいじゃんってなるかもしれないし。最終的にどこに落ち着くのかはまだわからないですが、皆さんが互いのことを思い合って話してきたことに意味がありますし、せっかく話してきたのだから、まずは実証実験してみたいですね。

新たに地域交通を立ち上げる場合は「今のものが不便だから」という感情だけでなく、既存の交通の見直しを最優先に、必要性の見直しや他との調整など兼ね合いが重要と話す木村さん。複雑で難解な情報を整理し、住民に分かりやすく説明をしてくれる姿はもはや交通のスペシャリストです!

交通の知識だけでなく、住民さんの声をすくいあげたり、話しやすい場を作ることも大切な役割です。

まずは交通を「ジブンゴト」として考えてみる

SCさんにつながったことを機に、徐々に地域交通と福祉や、住民さんたちをつなげ、輪を広げて
きた木村さん。木村さんが考える地域交通の課題、そして3年後に向けてのビジョンを伺いまし
た。

木村 モビリティの先には、その人それぞれの生きがいみたいなところに繋がっていきます。誰かに会いにいったり、遊びに行ったり、ちょっと買い物に行ったり、そういったことが人の生きがいや豊かさを作ると思うのですが、そのためには必ず移動手段がいります。だからこそ、運転手さんの不足や、ガソリン代の高騰などいろいろな課題があるけれど、やっぱり移動手段を失くしてはいけないと思っています。そのためにも、公助・自助・共助のバランスをそろそろ「みんな」で考える必要があると考えています。

たまにはマイカーをお休みして、公共交通を使ってみることで新たな発見が見つかるかも。

木村 今まで公共交通は、行政と事業者が考えるもので、住民さんから出てくるのは「もっとこうしてほしい」とか「ここが不便だ」という要望ばかりだったんじゃないかと考えています。でも、これからは楽しく快適に暮らしていくためにも、行政も、事業者も、住民さんも、交通のことを「ジブンゴト」にして行く必要があるんじゃないか? ってずっと考えています。と言っても、この「ジブンゴト」にしてもらうやり方っていうのがめっちゃ難しいんですけどね(笑)。

例えば小さい頃から70歳まで、ほぼ自分で車を運転して生きてきた人に対して、「公共交通使ってください」と言っても響かない。きっとものすごくハードルが高く感じると思います。私はバスや電車などの公共交通に困らないところで育ってきてたから「使えるじゃん」と思っても、相手は使う機会がないから乗り方がわからない。そこに対して「一緒に使ってみない?」とか「こういう気付きがあるんだよ」みたいなことを住民さんに伝えるやり方がめっちゃむずかしいです。何かその先の楽しみに結び付けたり、工夫が必要ですね。

いよいよ協力隊ラストイヤーに突入します。活動をする中で改めて地域交通をサポートできる人材、特に「第三者の立場での伴走者」が少ないと感じています。県内外でそのような人材を増やすために、どんな仕組みをつくっていくのか試行錯誤していきたいと思います。そして引き続き私も伴走者としての経験を地域に入ってつんでいきたいです。

公共交通と聞くと誰かが作った「ヒトゴト」のように感じてしまいがちですが、これからはどう移動するのか? ということを「ジブンゴト」として意識する必要性がありそうです。どの地域でも課題になっている移動手段。木村さんの今後の動きに益々目が離せません。

取材・文 眞子紀子
※この記事は2023年12月取材時点のものです。

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