2023

PROJECT06 | 外国人と友だち 隊員活動レポート

多文化共生のきっかけづくりから、継続的なつながりの創出へ。

武田有里子(たけだゆりこ)さん | 2023年度

現在、佐賀県内には約9,600人の外国人が暮らしています。以前より、まちなかなどで姿を見かける機会も増えたように感じます。そんな中、言葉や文化の違いから距離を取ったり、見えない壁があるのではないでしょうか?

この壁をなくす取り組みをしているのが「多文化コミュニケーションプランナー」の武田有里子さんです。京都出身の武田さんは、祖父母が暮らす伊万里市に幼い頃からよく訪れていたこともあり、佐賀弁も使いながら精力的に活動しています。

プランナーの仕事は 「外国人」と「地域」を隔てる壁をすこしでもなくすこと

ドイツで働いた経験のある武田さん。そのときに感じた孤独や苦労があるからこそ、佐賀に暮らす外国人にも明るい笑顔で接していきます。外国人と関わる上でどんな風に声をかけているのか、そしてそのお仕事のことを聞いてみました。

武田さん(以下、武田) 外国人との関わり方で、まず言葉が通じるか通じないか問題があるんですけど、実は日本語でも通じる人が多いんですよ。ですが、方言は難しいとよく聞きます。外国人の多くは、標準語のテキストを使って勉強しているので、佐賀弁だから通じない、みたいなこともあります(笑)。外国人を見ると「英語を話さないといけない」と思いがちですが、佐賀にいる外国人の8割以上が非英語圏出身なんです。

それに、案外言葉が通じなくてもジェスチャーや雰囲気で仲良くなれるものです。特に地域との交流で大事なのは、「言葉」よりも「互いを理解しようとする気持ち」だと思っています。そういう部分をもっと県民の方には、対話を通して体験してもらいたいですね。

もし日本語に自信がない人がいても、最初はできないのは当たり前だから、周りの方々は温かい目で見守ってほしいなと思います。歩み寄ってくれる人がたくさんいたら、もっと話せるようになりたいと思うようになります。そして、その地域をもっと好きになるでしょう。そんなやさしい地域は誰にとっても住みやすいと思います。

フレンドリーな笑顔が印象的な武田さん。やわらかく地域に溶け込み、みなさんをつないでいます。

武田 「多文化コミュニケーションプランナー」は県内に暮らす外国人と地域をつなげるお仕事です。すでに地域の一員として生活している外国人もいるけれどなかなか溶け込めない人もいます。外国人にとって、言葉の壁や、制度の壁、文化の壁、あと心の壁など、いろんなものがハードルになってしまうことがあります。外国人だからといって区別されがちですが、彼らも共に暮らす佐賀県民です。その意識が地域の人や、外国人自身にも根付いていけばいいなと思っています。外国人の中には「自分は外国人だし、あんまり地域とは関係ない」と思う人もいるけれど、日本人や他の外国人とつながるからこそできることも増えていくし、生活がより良い方向に変わることもあります。外国人が、縁あって住むことになった地域との接点をつくることが、私の仕事です。

佐賀には仕事で来日している外国人が多いんですが、そういう人たちに佐賀に暮らし続けたいなと思えるきっかけを作っていきたいです。そのためには彼らが壁としているところを少しでもなくし、地域の日本人との接点を作って、もっと互いに関わりやすい環境をつくるのが「多文化コミュニケーションプランナー」だと思っています。2年間やって、なんとなくこういうことかなって自分の中で分かってきた感じです。まだまだ道半ばですが。

佐賀で暮らす外国人の多くが、英語ではなく日本語の方が通じる場合があるというのは驚きです。武田さんは見えない壁をなくすために、そういった情報も発信しながら地域の人やそこに暮らす外国人との繋がりも大切に育んできました。

自然体で話す2人。地域で活躍中のミャンマーの方と、次回の交流会について打ち合わせ中。

カラフルなハートは多文化共生の象徴

すでに数々のイベントや交流の場を企画してきた武田さん。少しでも外国人が身近な存在になるように、多久市では外国人と地域をつなぐワークショップを開催しました。詳しいお話を聞いてみましょう。

武田 最近は多久市と江北町で活動することが多いです。県内のどの市町も外国人の数は増えてきていて、その中でも多久市は、外国人人口の割合が、県の中でもかなり高いです。ある集落では、10人いたら大体2~3人は外国人というところもあるくらいです。そのような地域で、外国人が地域とつながりを持っているのか、互いにどのような関係性を築いているのか、現場の実態が知りたくて、多久市で活動することを決めました。他にも、江北町では、外国人と日本人の交流の場でもある日本語教室がまだないということで、何らかの形で交流のきっかけを作れないかなと思い、地域に入っているところです。関わりを持った人には定期的に声をかけて、ちょっとした会話から抱える課題や、やってみたいことを拾い、「何ができるか」、「その悩みをどうしたら解決できるか」を一緒に考え、カタチにするというプロセスで関わっています。

最近仕事で知り合った多久市内の介護施設で働いている外国人男性がいます。彼は、日本語力がかなり高いのですが、日本人の友達は少なく、勤務がシフト制のため母国出身の友達と休みが合わないことがあり、少し孤独を感じていました。彼は「地域の日本人との交流はあまりないけど、絵を描いたり、何かつくったりしながら交流する機会があれば参加したい」と意見をくれました。そのことがきっかけとなり、多久市在住の画家で、西九州大学短期大学部の牛丸教授と一緒に多文化共生イベントをすることになりました。牛丸教授も「多久市で多文化にふれるイベントをやりたいと思ってました。ぜひ一緒にやりましょう!」と言ってくれて、意気投合しました。その他にも、意見をくれた外国人やその友人、多久市役所の職員にもイベントの企画に入ってもらいました。同じ多久市に住む様々な立場の人たちが出会い、一つのものを作り上げることで、地域に良い化学反応が起きたなと思いました。

様々な工夫をがなされているフライヤーは手作りが多い。イラストも上手な武田さん。

武田 「アートと日本語で外国人とふれあおう!」というイベントで、内容はとっても簡単。みんなでハートを作るっていうだけです(笑)。作業しながら、お互いに色々なことを話します。ハートは、色もカタチもなんだっていいんです。人それぞれ持ってるハートって違うから。みんなのハートが集まった時にすごくきれいに見えて、これこそ多文化共生なんだと感じました。親子の参加者が多く、外国人になかなか話しかけられずにいる子どもにたいして、お父さんお母さんが「あのインドネシアのお姉ちゃんに話しかけてみなよ」って促しているのを見て、親子で多文化にふれる場をもっと増やしていけたらいいなと思うようになりました。

アンケートの結果では「新しい友達ができた」という外国人の回答が約6割になりました。たった1人の声から生まれたイベントなんですが、総勢60人以上もの人々に関わっていただけたのは嬉しいことでした。イベント自体は「単発で終わる」と言われるけど、そこから見えてくるものもあり、それをきっかけに次につながることもあると気づきました。実際に、このイベントがきっかけで、地域の色んな人とつながることができたので、活動がしやすくなりました。「こんなに人が集まってくれるんだ!」という意外な驚きもありました。参加者が多いということは、「多文化にふれたい!」と思っている県民は案外いるということにも気づきました。

国籍や年齢問わず誰もが楽しめるワークショップで、心の距離も縮まり、背景には壁を埋め尽くすほどのハートがびっしり。このイベントをきっかけに、地域の人とそこに暮らす外国の人の交流が深まったようです。

イベント参加者のみなさんと。奥の壁にはいろんなハートがいっぱい。(本人提供写真)

地域と外国人が継続的に関わる野菜づくり交流

いよいよ総仕上げの3年目に向けて、今後は、地域と外国人のつながりを継続的なものにしたいと話す武田さん。モデルケースとなる事例づくりに取り組んでいるようです。どんな活動なのでしょうか。

武田 3年目は多久市や江北町などで多文化共生の事例を作り、それを他市町に広めていく活動をやりたいです。継続的な交流というのをずっと考えていて、その取組の一環として、多久市で始めようとしているのが「野菜づくり交流」です。多久市には30人くらいの外国人が集住している地区があります。そこには遊休地があるのですが、地域の人と一緒に耕して農園にしました。

多久市での交流について話した時に、地域の人の「野菜づくりなら身近に感じられるし、自分もできそう」という一言がきっかけで、野菜づくりをすることになりました。そこからはトントン拍子で話が進み、地域の人が遊休地をユンボ(=ショベルカー)で耕してくれて、あっという間に農園が完成しました。

協力してくださる地域のみなさんと農園づくり。みんなのリクエストを集めて今度は夏野菜を育てるとか。

武田 秋には外国人も含めた地域のみなさんと「芋掘りまつり」をしました。一緒に芋を掘って、その芋を使った料理を、青空の下で一緒に食べながらお話ししました。近所の子どもたちも来てくれて、外国人参加者も大喜び。芋堀りは一種のイベントだったけれど、今後は管理ルールを決め、定期的に顔を合わせる機会をつくり、この農園で、ゆる〜く交流が続いていけばいいなと思っています。負担がかかりすぎることなく、でも継続できる形で……というのがなかなか難しいのですが(笑)。今は地域の人と私が主体でやっていますが、地域団体と連携できないかな、とか色々考えています。

これからは“集落のほとんどが外国人”、という地域も出てくると思います。でも、受け入れ環境がない状態で外国人が急に増えたりしたら、分断が起こってしまうかもしれない。そうならないように、みんなで一緒に地域を作っていこう、というマインドが育てば、地域はもっと良くなると思うんです。外国人を”お客さん”として考えたら、その人達の力は発揮されないまま。それはもったいない。でも、つながりが生まれたら、色んな視点で知恵を貸してくれるかもしれないし、そうして地域が活性化されるかもしれない。外国人でも誰でも地域で活躍できる、「みんなでつくる佐賀」を目標にしています。こう見えて、佐賀のことを真剣に考えているんですよ。佐賀は私のルーツでもあり、これからも自分が住む地域の未来のことだから。

一人一人の声を大切に、丁寧に寄り添い続ける武田さん。私たち一人一人が心の壁をなくし「同じ佐賀県民」という視点で一歩を踏み出すところから、多文化共生の社会はつくられていくのだと教えてくれます。

取材・文 眞子紀子
※この記事は2023年11月取材時点のものです。

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