
2024
PROJECT10 | 島と人 隊員活動レポート

共に島に暮らし、七つの島を行き来しながら島の人の言葉に耳を傾けてきた「七つの島の聞き書きすと」の長谷川さんと長塩さん。こどもの頃の出来事や行事などの懐かしい話から恋バナまで、2人だからこそ聞き出せたお話がぎゅっと詰まった本がいよいよ完成しました!
すっかり島の人と顔馴染みになった長谷川さんと長塩さん。船で会うと「うち来るね(うちに遊びにおいで)」とお声かけされることもしばしば。各島のサンプル本を完成させ、アルバムの完成まであと少し!という昨年6月、根本から見直すような出来事が起こりました。
長塩さん(以下、長塩) 当初は島ごとの「アルバム」を作る予定でサンプル本を作っていました。昨年の6月、本番のアルバムに取り掛かる前に、プロのデザイナーさんから「今の形は写真を集めて島の歴史とか基礎情報を載せてる本であって、聞き書きアルバムではないのでは」とアドバイスをいただきました。私と長谷川さんしか聞けない、その島のその人にしか聞けないようなお話を載せた方が面白いんじゃないかって言われたんです。
長谷川さん(以下、長谷川) 辛口でコメントをくださいってお願いをしたんです。基本的にサンプル本に対してネガティブなことを言われることがほぼなくて、島の方はみんな褒めてくれるし、外部の人に見せても「すごいね」としか言われなかったので、自分たちの中でも何が正解かがよくわからなくなってしまって。元々の計画ではサンプル本をリニューアルする予定だったんですけど、それだと大きくは変わらない。新しい情報の発見とかはあるけど、多分感動がないし、もらう側になったときに面白くないなと思って。おばあちゃんの恋バナとか、少女のときの写真の横に小ネタみたいなのが入っていたら、そっちの方がよっぽど読んでて面白いし、島に住んでそれだけ密接に関わってるんだったらそっちの方がいいって思ったんです。
褒め言葉よりも辛口コメントを希望し伸びしろをどんどん伸ばしていく長谷川さん。この姿勢が2人らしい「聞き書きアルバム」に繋がったようです。
長塩 2人で、確かに今までのは聞き書き本ではなかったねって。別にサンプル本が悪いとも思わないけど、私達にしかできない仕事かって言われるとそうでもない。1回立ち返っていろいろ話し合って、「島のアルバム」って言葉にとらわれてたねって。島の人のことを考えすぎて島の方が懐かしむアルバムは何だろうっていうことにずっと悩んでました。アドバイスをいただいた中に「本を作るに当たっては編集者の独断が入ってくるのは当然」という言葉があって、それが腑に落ちたんです。私たちという編集者の独断が入ることは、もうむしろ認めて、島の方にとっては当たり前すぎたり、こんな個人的なことって思うかもしれないことでも、よそ者でもあり、一瞬島の人になった私達が面白いと思った話や写真を載せようって決めました。結果、7冊バラバラじゃなくて1冊にまとめる案が出てきたんです。
1冊にまとめるメリットは他の島の聞き書き話も見れること。島同士で繋がりがあるから、他の島の昔話を聞いて、「うちの島もこうだわ」と思ってもらえるなら、1冊にするメリットも大きいんじゃないかと思って。2人だけでずっとモヤモヤ考えてたから、第三者の意見を聞いて結果的にすごく良かったです。言語化もしてもらえて、自分たちが目指す方向が明確にわかりやすくなって、あとはそれをどうするかになりました。
長谷川 最終盤に向けて、2人で写真とか話のリストアップをして、改めて話を聞けそうな人を島の人に紹介してもらい、ほとんど取材をし直しました。今までのサンプルアルバムは自分たちで程よく読みやすい文章に編集してたんですけど、今回は基本的に島の人の喋り言葉をそのまま載せるようにしてます。正真正銘の「聞き書きアルバム」になりました。
完成した本はなんと170ページ。表紙には手描きのかわいい七つの島が浮かび、中には当時の様子を伝えるたくさんの写真が並んでいます。アルバム制作のこだわりを聞いてみましょう。
長谷川 再取材を始める前に、島ごとにだいたい10個ぐらいのトピックを決めました。でも話を聞いてる中で新しい面白い話が出てきたりするんで入れ替えをし続けて。写真がなくて、でも載せたいよねっていうのは「あれこれ聞き書き」コーナーに小ネタとして載せました。あとは今住んでる人たちの声もちょっと入れて。島への想いみたいなのが載ってたら読み直したときにいいよねっていうことで取材しました。
長塩 アルバムって言葉にとらわれつつ、3年間やってたものが形になって「これだったのか!」って感じです。思ったより読み物っぽくなったけど、写真も結構大きく載ってるから、写真集的な要素もちゃんと残しつつ、でも聞き書きアルバムっていうところに落とし込めたのではと思います。
悩みに悩み辿り着いた2人だからこそ作ることができた「聞き書きアルバム」だと話す長塩さん。たくさんの人に見ていただきたいです。
長谷川 学校の卒業アルバムみたいにするつもりも、町史みたいにするつもりもなかったので、結果としてすごく良い形にまとまったんじゃないかと思います。自分たちとしてもすごく愛着のある形になりました。これだけいろいろ思いながら作ったから、我が子のような気持ちでいますね。親しみを持ってもらうっていうのは前提にあったので、デザインもかわいい寄りにしました。パラパラっとめくれて、文字も大きめに作った方が、小学校低学年の教科書みたいな感じでいいかなと。どこを開いてもそのページで完結するように作り、ぱっと開いてお孫さんが1ページだけ音読できるぐらいの量を意識して構成しました。
長塩 アドバイスの1つに、「アルバムを渡すときのこともイメージしながら、どんなふうに渡したいか、受け取ってもらいたいか」ということもありました。お手紙付きで送れるような仕掛けがあると楽しいよね、ということでしおりと帯をつけることにしました。自分のこども時代とか家族のことが載っているページに、一言メッセージを添えられるしおりをはさんで、島を出た家族に送れるっていうのを、長谷川さんが考えてくれたんです。すごくいいな!と思っています。。
メッセージカードにもなっている七つの島ごとのしおりに、自分でスタンプを押しオリジナル作品を作れる帯。工夫が詰まっています!
長谷川 最初、小川島でサンプル本を600冊作ったんです。本当は120冊くらいあれば十分なんですけど、協力隊の活動をする上で名刺代わりに配ったり、公民館とか漁協に置いてお渡しできるようにと多めに刷ったんです。結果、600冊作って大正解で。サンプル本を渡したら、「○○に送りたいからもっと欲しい」って言われたり、「追加ありますか?」って連絡が来てダンボールで持って行ったり。。思ったより欲しがる人が多くて、「いるんや!」って感じでしたね。
長塩 元々アルバムをお渡しする相手として島に住んでる方と島を出た方を想定していたから、1世帯に3冊ずつ配ることにしました。それと各島で配布イベントを開催する予定で、本に入りきれなかった写真のスライドショーをやりつつ、私達も御礼を述べ、写真を見て懐かしいねとか言いながら、本の帯を作るワークショップをします。スタンプを押してオリジナルの帯を作って持って帰ってもらうっていう内容です。それと長谷川さんが島の方からイカをもらいこの3年間いろんなとこで焼き続けた、たこ焼きならぬイカ焼きの振舞いをやろうかって話しています(笑)。
とっても素敵に仕上がった「七つの島の聞き書きアルバム」。手にした島の皆さんの喜ぶ顔が目に浮かびます。さらに、直接感謝の気持ちを伝えたいと企画された配布会。きっと笑顔で溢れるイベントになるでしょう。
お渡し会で振る舞われたイカ焼き。楽しそうにアルバムを見る島の皆さんと2人の笑顔が輝いています。
長谷川さんは3月末、長塩さんは5月末に地域おこし協力隊を卒業する予定です。時期は異なりますが、卒業までの期間、そして卒業後はどんなことを思い描いているのでしょうか。
長谷川 毎月発行してきた「聞き書き新聞」は、3月に配られる32号が最終です。今までは自分たちを出しすぎないようにできる限り黒子のようにしていたのですが、最終号は、感謝の気持ちをたくさん書き連ね、2人の3年間の写真も載せまくりました(笑)。思ったよりも楽しみにしてくれてる人が多くて、いろんな人から「読んだよ」って言ってもらえたのが嬉しかったですね。
長塩 最初の頃は「誰だこいつら」みたいなところから始まって、取材って言うと向こうも身構えられたりしていたけれど、今はそういうのもなくなって気軽に受けてくれるようになったよね。3年間やってきて、めちゃくちゃ存在と仕事が浸透して、島民さんと一緒に地域新聞を発行してる感じもちょっと出てきて。最後はもう感謝の気持ちでいっぱいでした!
最後のききかき新聞。3年間の思いがぎゅっと詰まっています。
長谷川 僕は島で今の奥さんと出会い結婚しました。これからは、奥さんの地元である鹿島市で暮らしていきます。自宅とは別に鹿島市の酒蔵通りの近くにある民家を借りて、交流の場みたいなのができたらなって思っています。
聞き書きをして、残すことの大切さを強く実感しました。アルバムを作っているときに、島にあった昔の青年誌とか、青年団が作ってた本がすごく参考になったんです。その情報があったから、この人に会いたいって取材したこともありました。ネットだと20年経ったら小さい情報は埋もれるけど、紙という形にすることで残るものがあるんだと。
それと島で昔作っていた料理を一緒に作ったときに、思い出の料理を大事にしている高齢者もいるけど、こどもたちは知らないということがあって。だから鹿島で昔のことを聞きながら、高齢者もこどもも交流する場みたいなのが作れないかなと思ってます。
生まれたばかりのこどもの名前は詞万(しま)くん。島で出会った2人らしい素敵な名前です。
長谷川 僕は島が好きで、島とずっと関わりたい。今は島には住めないけど、島に行くきっかけを作る場所を模索中です。鹿島で島の本とか特産品とかを扱って、そこから興味を持って島に行く人が少しでも増えるきっかけを作っていきたいなって思っています。特産品を売ろうと頑張っている人はいるんですけど、リソースが少ないんで売りたくても売れなかったり、作ったはいいけど販路がなかったり。島の人たちが作った物をどうにかして売って、利益を島に還元するような仕組み作りができないかなって考えています。
長塩 私は3月までは長谷川さんと一緒に島の方にとにかく本を配り、感謝を伝える行脚です。5月までは聞き書き新聞や本を唐津市の図書館やお世話になった方に配り、島の外に広げることもやろうと思っています。意外と「聞き書きすと」の仕事に興味を持ってくれる方がいて、全国の協力隊から「うちの地域でもこういう昔話みたいなことをやりたがっていて」とか「取材の仕方って具体的にどうするんですか」と連絡があって、皆さんその土地の記憶を残すみたいな作業は大事だと思っているけど、前例がないのかなって。そういう人たちの役に立てるようなことが残り2ヶ月でちょっとでもできたらいいかなと思ってます。
卒業後は、最初とあまり変わらず、イラスト業なりデザイン業なりを引き続きやっていこうと思っています。この3年を通じて、本作りはすごく楽しかったです。デザイン業は昔からやっていたんですけど、与えられた情報で組むことが多かったので、最初何を作るかから考えて、取材して編集して、最後までやる。なんなら手に渡るところまで考えるっていうのは初めてでした。それは今後の仕事にも影響するだろうし、単純に自分で考えたものを形にするのは楽しいなって思いました。170ページの本を作ったことがなかったのでもう感無量です。やっとじわじわ冷静な目で読み始めて、思ったよりずっと良い本だって自分でも思っています(笑)。
お渡し会にはたくさんの人が駆けつけてくれました。「七つの島の聞き書きアルバム」は、島の宝物の1つになったのではないでしょうか。
長谷川 ずっと駆け抜けてきたし、やってみたいことができたなっていう感じですね。3年間活動してみてすごい思ったのは、残すことにこんなに大きな意味があるんやっていうのが一番。喜んでくれる人とか、新しい発見だったりがすごいあって。今、時代的にも新しい物より古い物とか、昔からある物を大切にしたり、自分が体験することにみんな重きを置いているし、価値があるふうになってきているから、すごいいいことなんだなっていうのを感じました。
島への愛情がたっぷり詰まった「七つの島の聞き書きアルバム」には、島で今も大切にされているものや、大切にされていたものがたくさん詰まっています。島の記憶を記録に残した2人の聞き書きすとに拍手です!
取材・文 眞子紀子
※この記事は2025年1月取材時点のものです。
追記
長谷川さんは2025年3月末に、長塩さんは2025年5月末に任期を満了され、SML(佐賀県地域おこし協力隊)を卒業されました。卒業後は、長谷川さんは鹿島市で古民家を借りて古本屋やこども食堂などコミュニティの場を運営しつつ、様々な仕事をマルチにこなし活躍中。長塩さんは嬉野市に移り、古民家を購入しイラストやデザイン業などをされて活躍中。島を離れても、ゆるやかなつながりを持ちながらそれぞれに充実した暮らしをしています。2人の今後の活躍も楽しみです。
長谷川さん、長塩さん、3年間お疲れ様でした。