「さがむすび隊」は、CSO連携型地域おこし協力隊です。人と人とをつなぎ、CSOや企業などの民間団体と行政をつなぐ役割をもっています。ひとりでは解決できないことも、人と人とをつなげることで解決できることがたくさんあります。「さがむすび隊」は、今よりすこし、人と未来にやさしい社会の仕組みをつくる手助けをする仕事です。
認定NPO法人地球市民の会(以下、地球市民の会)と連携した「さがむすび隊」に着任したのは山口県光市出身の古泉志保さん(以下、古泉さん)。古泉さんは、青年海外協力隊としてエチオピアで2年3か月活動をしていたそうです。帰国後も国際協力や社会貢献の仕事を続けてきた古泉さん。エチオピアでのことや、これからの「さがむすび隊」での仕事への想いを伺いました。
青年海外協力隊としてエチオピアで活動した経験を持つ古泉さん。エチオピアではどんなことをしていたのでしょうか。
古泉さん(以下、古泉) エチオピアでは、井戸のメンテナンスとか水資源の調査といったことをする予定で派遣されました。ところが、青年海外協力隊ではよくある話なのですが、現地に行ったらそんな仕事はなかったんです(笑)。言葉も通じないなか、一体なにをしたらいいのかわからずに最初は本当に戸惑いました。でも、何か社会貢献をしたいと思って勇気を出してエチオピアに行ったので「何もできませんでした!」と言って帰ってくるわけにはいかないと思いました。それで、いろんな人に声をかけながら少しずつ地域に慣れていき、小学校で手洗い指導をしたり、改良かまどの普及をしたりしていました。
エチオピアでの暮らしは本当にたのしかったけれど戸惑うこともたくさんあったという古泉さん。大変だったことや学んだことを伺いました。
古泉 エチオピアでの暮らしは慣れるまでは大変で、ノミやダニ、南京虫に200か所以上、常に刺されていました(笑)。食べ物が合わなかったり、言葉が通じなかったり。とにかく大変でした。でも、多くの学びがありました。その中でもいちばん印象に残ったのは自分の中に、気がつかないうちに大きな思い込みがあるということでした。
古泉 ある日、一緒に働いていた20代のエチオピア人の同僚が亡くなったときのことです。たとえば、日本だったら、病気で誰かが亡くなったときに、ガンだったとか、脳梗塞だったとか理由がある程度わかりますよね。エチオピアでも当然そうだと思っていたんです。でも、誰に聞いてもなぜその方が亡くなったのかわからなかったんです。私はなぜその方が亡くなったのか知りたくて、いろんな人に聞きました。ところが、人によってはガンだったというし、人によっては風邪だったというし、さっぱりわからなかったんです。そして、しばらくして、本当に誰もどうして亡くなったのかがわからないんだと気がつきました。日本のように医療が発達しているわけでもないから本当にわからないんです。でも私は「わかって当然だ」とどこかで思い込んでいたんです。ちょっとしたことなのですが、大きな気づきでした。
古泉さんは、エチオピアのあとにも、ガボンやベトナムでも暮らしていたそうです。海外での暮らしを経て、古泉さんは佐賀でどんなことをしたいと考えているのでしょうか。
古泉 海外で暮らしているときに現地の方たちから、本当に親切にしてもらいました。だから今度は、形を変えた恩返しのように、心細いときに頼れる存在になれたら嬉しいと思っています。今までも国際協力や社会貢献につながる仕事をしたいと思っていましたが、コロナをきっかけに、日本に帰ってきてから、益々その思いが強くなりました。私自身も海外で暮らしているときに外国人として暮らすことの大変さをたくさん経験したので、ネットワークづくりや困ったときの支えになれるようなことがしたいです。
古泉
他にも、異文化理解講座など日本の人にも日本以外の国の文化や価値観を伝えて行けるようなこともしたいと思っています。若い頃に出会った言葉で「正論では人は動かない」という格言があるのですが、その言葉の重みを痛感しています。私はついつい不条理な出来事に出会うと怒ってしまうのですが、できるだけ正論で真っ向から向かわずにユーモアを取り入れていきたいと思っています(笑)。なので、「異文化を理解してよ!」と言うのではなく、たとえば、「エチオピアにはコーヒーセレモニーという日本で言う茶道みたいな素敵な文化があるんですよ!」とか、楽しいことを入口にして気がついたら異文化のことも好きになってもらえるようなことができたらいいですよね。
コーヒーセレモニーというのは、エチオピアで冠婚葬祭やお客さんが来た時などに、感謝やおもてなしの意味を込めて行われるものです。コーヒー豆を煎るところからはじめ、みんなで良い香りに癒されながらお話をしたりしながら、2時間くらいかけてコーヒーを飲むとても素敵な文化です。こういったことを広めたりすることから少しずつ、誰かの役に立てるようなことをしていきたいです。
飛び込まないとわからない魅力をたくさん経験してきた古泉さん。古泉さんが経験してきたからこそわかる異文化の魅力が佐賀でも少しずつ広まっていきそうです。佐賀で暮らす外国人の皆さんの頼れる存在になりそうですね。
取材・文 門脇 恵