2022

PROJECT09 | 市民活動と人 隊員活動レポート

佐賀で安全に暮らしてほしい。ウクライナ避難民をサポート

古泉志保(こいずみしほ)さん | 2022年度

人と人をつなげることで課題を解決するCSO連携型地域おこし協力隊「さがむすび隊」。佐賀県から委託を受けた認定NPO法人地球市民の会に所属し2022年2月から活動をはじめた古泉志保さん。外国人在住者に向けて災害情報を母語で届ける防災ネットワークを推進することが仕事です。

ウクライナ避難民の受け入れに尽力した半年間

青年海外協力隊を含む豊富な海外経験を持つ古泉さん。1年目はどのような活動を行っているのでしょうか? どうやら思いがけないことがあったようです。

古泉 実は、着任してから今までの半年の間は、ほとんどウクライナ避難民の受け入れの仕事をしていました。本来の仕事は外国人在住者のための防災ネットワークを推進することでしたが、皆さんがご存知のように、ウクライナで戦争がはじまりました。着任したときには戦争が起こるなんて誰も想像していませんでした。 私は官民連携でウクライナ避難民の受け入れを支援するプログラム「SAGA Ukeire Network ~ウクライナひまわりプロジェクト~」(以下、UN)の事務局として、避難民の方たちの受け入れを進めてきました。応募受付やオンライン面談、航空券の手配、ネットワーク内の調整などが主な業務です。4月に1組目の方を受け入れて以降、これまでに10組20名の方々をウクライナから佐賀にお迎えすることができました。佐賀に来られるまでの事務全般を、私ともう一人の担当者さんでこなしていたので、ちょっと忙しかったかな(笑)。

改めて活動を振り返る古泉さんは、時折ほっとしたような表情を見せるシーンも。

古泉 佐賀では用意している宿舎の関係で、家族と一緒に避難される方を優先しているんですけど、単身でも来る人は来ます。やっぱり、みんな困っているので。どうしても助けてほしいと言う方とも面談しました。単身でも、困っているのは変わらないわけですから。他の自治体だと、そこに以前から住んでいるウクライナ人を頼って来ることが多いです。募集フォームを公開して、日本に縁もゆかりもない方を受け入れているのがネットワークの特徴です。

半年間、膨大な業務に対し献身的に対応してきた古泉さん。しかし、想定していた活動内容ではありませんでした。こうして日々忙殺されながらも、少しずつ自分のやりたいことを模索していきます。

ウクライナひまわりプロジェクトの案内の中には、簡単なあいさつや会話が交わせるような、気配りが。

忙しい中でもできることをみつけていく

着任前のイメージとは異なる活動となった古泉さん。このまま、ウクライナのことだけに取り組んでいても、十分立派な実績と言えるでしょう。それでも、少ない時間を使って活動を広げていく古泉さんの姿がありました。

古泉 ウクライナから避難してきた方々を受け入れた後のケアは、主に佐賀県国際交流協会が行うので、正直言うとその後のつながりはそこまでありません。ただ、大学生のマリヤさんとは個人的に連絡をとりあっています。彼女は、もともと宮崎駿監督のアニメのファンで、大学でも日本語の勉強をしていました。日本語で面談をした避難民の方は彼女が最初です。戦争が始まった時のことを日本語で伝えてくれたのが、今でも印象に残っています。先日、私が参加したライター講座で、マリヤさんを取材させてもらって記事を書きました。そしたら最優秀記事に選ばれて嬉しかったです。

マリヤさんの取材記事には、古泉さんだから聞けた話が詰まっています。

古泉 私の本来のミッションは、外国人のネットワークをつくって、防災に活かすことです。ウクライナ支援は業務としては予定になかったこと。関係なくはないし、やりがいもありますけどね。それまでは全然手が回らなかったけど、8月からはイベントも始めたんです。「世界とつながるカフェ♡ワールドTEAパーティー」は、お茶を飲みながら異文化交流するもので、毎回、佐賀在住の外国人に母国の飲み物を振る舞ってもらいます。第1回は、私が青年海外協力隊として2年滞在したエチオピアの伝統的式な習慣"コーヒーセレモニー"でした。

あまり告知もできなかったんですが、9人も集まってもらえました。参加者の中には、同じ佐賀県で活動する地域おこし協力隊の顔も。お茶を飲みながらざっくばらんに話して、「外国人」や「日本人」という漠然とした存在じゃなくて、「近くに住んでいる、〇〇から来た〇〇さん」のような、お互いに顔と名前が分かる関係性づくりを目指しています。

お茶会の話をしている古泉さんは、とてもいきいきとして見えますした。その後、このお茶会はウクライナ、ベトナム、ミャンマーへと続いていくことになります。

異国文化に触れ、つながりを考える。お茶会から私たちの未来が始まっています

課題は山積みだけどブレずにすすみたい

激動の半年間を過ごした古泉さん。逆境とも言える状況で活動を模索し、ライター講座で最優秀記事に選ばれたり、イベントの企画運営を進めたりしてきました。これからどんな風に活動していくのか、とても気になります。

古泉 佐賀へのウクライナ避難民の受け入れは続きます。30組を目安にしていますが、国際情勢のなりゆきによっては変わるかもしれません。課題と言えば、人手不足でしょうか(笑)。行っている事業数に対して、組織のスタッフ数が少なくてびっくりされることがよくあります。あとは、戦争が長期化するにつれて寄付も 少なくなっています。これからが大変なのに…。

活動としては、お茶会をやり遂げたいですね。現在予定している全6回を実施したあと、仲良くなった輪を広げていけたらと。お茶会のほかにも、外国人から日本での災害体験を母語で聞くという企画も立てています。題して「聞いて!聞かせて!私の/あなたの水害体験談 」。例えば、ベトナムは多雨の国だから、雨でも逃げないんです。でも、日本だと一歩間違うと亡くなってしまうこともある。佐賀で水害を経験したベトナム人に、母語で実体験を話してもらうことで、聞く側は気軽に質問をしてもらえるような会にできれば。それと、余裕ができたら、ライターの仕事もしてみたいと思っています。

できることを着実に。そして広がりつつある、外国人と私たちのつながりの輪。

古泉 仕事は本当に忙しいのですが、オフでは夏に、協力隊仲間と長崎・五島へ遊びに行きました。たくさんお休みがあったわけじゃなかったんですが、みんなと海で遊んで「青春だね」って話しました(笑)。

少しずつ、自分の時間を歩き始めた古泉さん。移りゆく社会情勢に対応するのが行政の役割であるなら、その一員である地域おこし協力隊もまた然りです。決して不運とあきらめることなく、やりたいことをブレずに進めていく姿が、とても頼もしく見えました。

古泉さんの書いた記事はこちらからご覧になれます。
https://note.com/saga_writer/n/n306ac998ddef

 

取材・文 橋本高志
※この記事は2022年9月取材時点のものです。

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