2023

PROJECT08 | 市民活動と人 隊員活動レポート

「すっかり佐賀県人です」笑顔外交で縁の輪をつなげる

野見山茂(のみやましげる)さん | 2023年度

野見山茂さん(以下、野見山さん)が任されている、CSO連携型地域おこし協力隊「さがむすび隊」とは人と人、人と組織をつなぐことで社会課題の解決を目指すプロジェクトです。NPO法人さが市民活動サポートセンター(以下、さがサポ)と連携した「さがむすび隊」として2021年11月に着任してもうすぐ丸2年。
「防災」、「子ども」、「まちづくり」を活動のテーマに掲げていた野見山さんにとって、いろいろな変化や出会いがあったそうです。現在、活動の足場としている旧枝梅酒造(佐賀市)でお話を聞きました。

※CSO・・・Civil Society Organizations(市民社会組織)の略。NPO法人や市民活動団体、自治会といった組織・団体を包括的に呼称している。

使い慣れてきた佐賀弁で心の距離を縮める

北九州からご家族で移住してきた野見山さん。前職では最前線で営業に駆け回り、経営者としてもその重責を知っている。だからこそ、地域おこし協力隊として着任後も団体の悩みや課題などにしっかりと寄り添い、たくさんのつながりを育んできました。

野見山さん(以下、野見山) もう完全に佐賀県民になりましたね。ちょっと前までは「福岡県からきた人」って思われてたと思うし、僕の中でもそう思っていたんですけど、今は完全に佐賀県民だなと思っています。ライフワークが食べ歩きで、美味しいお店も気がついたら福岡より佐賀の方がたくさん知っていますね。今年、家族で書き初めをしたんですけど6歳の息子が、佐賀のお気に入りの食堂の店名を書いていました(笑)。息子もすっかり佐賀になじんでいるようです。

楽しそうに話す野見山さん。すっかり佐賀の人の顔です。

野見山 方言も慣れてきたんですけど、ネイティブの佐賀弁は使えてないというか、活動エリアが広いので地域性もあってまだまだ練習中です。相槌で「よかですか」とかを極力使うようにしています。最初ドキドキしてたんですけど、さらっと言えるようになってきました。

さがサポと連携した「さがむすび隊」の役割は、地域とステークホルダーをつないでいくことだと思っています。ただ繋いでマッチングするだけでは「知り合い」で終わってしまうので、僕のテーマにもなっているんですけど「どうすれば一緒に協働・協業できるか」。そのために、NPOがやってほしいことを企業に持っていくときは、企業の人がわかりやすいように説明するなど、橋渡しの役割を担った仕事かなと思っています。実際に打ち合わせの場に入って通訳のような役割を担うシーンも多いです。

野見山さんは、企業・NPO・行政、それぞれでよく使う言葉があり、伝わりやすい話し方があることに気づいたそうです。そのちょっとした配慮で話がよりスムーズに進み、支援の申し出も変わってきているようです。

野見山さんのおすすめの「あおひろ食堂」で。

災害支援に奔走した夏

着任当初から(一社)佐賀災害支援プラットフォーム(以下、SPF)の事務局スタッフとして運営に携わってきた野見山さん。2023年7月の大雨による災害支援にも現場に入って携わりました。

野見山 7月10日からの大雨で被害があった唐津市と佐賀市の災害対応で、8月の終わりくらいまでは唐津市に貼り付け状態でした。ボランティアセンターにつめたり、県外から重機を持ってきてくれた団体さんと支援が必要なところをマッチングをして一緒に入ったり。住民さんが不安にならないようにつないだり。

資格や免許をたくさん取っていたので、ユンボに乗って土砂出しとかやれて、資格が大変役に立ちました。免許とっただけでは全然乗れないんですが、現場に災害のプロたちがたくさんいたので、教えてもらったり、見て覚えたりしました。

被災地での爪痕は大きい。全国各地で毎年のように起きる災害。益々対策が必要になってくる。

野見山 実際にはじめて災害支援をやってみてこんなに大変なんだと思いました。普段優しくてゆとりのある人が「はい、発災」となるとパンパンになるんです。そのパンパンの人たちが会議で集まるとギスギスになるじゃないですか。それが大変でしたね。いいことばかりじゃないし、むしろ見ない方がいいようなこともたくさん見た。でも、災害支援ってやっぱり誰かがやらなきゃいけない役割だったりするので、必要なんだなって。

佐賀は災害対応に関して進んでいると思います。現場を担う団体はあっても、SPFのように災害の中間支援をやる団体はなかなかない。そういう団体が県下に存在する凄さというのを感じました。情報共有を中間支援組織がまとめてやることで現場が動く仕組みがあるのはすごいことだなと思います。

これまでの積み重ねがあったことで即戦力として支援に携わることができたという野見山さん。実際に災害支援に携わったことで、防災の必要性をさらに実感したそうです。防災以外の活動についても詳しく聞いてみました。

歴史ある蔵に新たな光を。活動を積み重ね、意識も変えていく

1年目はさがサポの山田さんとたくさんの団体をまわって縁をつないできた野見山さん。たくさんの出会いの中でピンとくる新たな出会いがあったようです。

野見山 まちづくりの文脈で、NPO法人まちの根太(以下、まちの根太)に最近は深くかかわっています。明治40年創業の旧枝梅酒造という素晴らしい建物があるのですが、「まちの根太」はその管理を委託されています。私はイベントの支援から建物の解体や保存に関するファンドレイジングをやっています。関わろうと思った理由は単純に初めて見たときに「かっこいい。ここにおりたい」と思ったからです。

旧枝梅酒造の東の蔵。酒造時代の名残を残した建物の中には、イベントスペースやシェアアトリエが入っている。

野見山 建物を維持するためにも、アートとか文化的な活動をする場、そういう人たちが集まることで人がいっぱい集まる場所にしていきたいという思いがあります。正直、お金になるような仕事ではないのですが、旧枝梅酒造のような歴史の重みを感じるかっこいい建物を残しながら活かしていけたらいいですよね。この活動は、お金を稼ぐ手段というよりも、「良い場所をつくりたい」とか「続けていきたい」という気持ちです。

今後は「まちの根太」や昨年から取り組んでいる「ごみダイエット」など佐賀市を軸とした、まちづくりの仕事を7割、「SPF」を中心とした防災の仕事を3割くらいで、「まちの根太」での活動を多くしていきたいと考えています。

少しずつ手を入れながら活用できるスペースを広げている。アーティストを中心に地域の居場所になりつつある。

野見山 1年目から続けている「子どもの支援」の話を今回はあまりしませんでしたが、「子ども支援」もやめたわけじゃなくて企業から受ける支援先が防災か子どもかの違いなだけで、経営者の方がCSR(企業が担う社会的責任)活動として何を支援したいかによってメニューが変わるだけだと思っています。

たとえば今年は、ある保険会社さんが「ごみダイエット」に参加してくれたんですね。イベントでゴミ箱が集まるエコステーション1ブースにボランティアが20~30人くらい必要なんですが、その1ブースを担ってくれました。これがなかなか難しくて、ごみを「捨てたい」という人にごみの入った手元の袋を開けてもらって、竹串はこっち、プラ、燃えるごみ、残飯はこっちと分けてもらい、時にはやり直しって言わないといけないんです。でも保険会社の皆さんは、コミュニケーション力が高いので声かけが上手で、参加者の人たちも、気持ちよく分別に協力してくれていました。そんな風に、それぞれが活躍できる部分や興味を感じる部分でつながって助け合っていければ意識も変わっていくのではないかと思っています。

足場とする活動を固めつつ、地道な活動を通して、潤滑油のように人と人の心をつないでいる野見山さん。卒業後は「ファンドレイジング」支援を本業として考えているそうです。貴重な経験と知識、そして人脈をフルに生かし、3年目も精力的に走り抜けてくれそうです!

NPO法人「まちの根太」代表の武廣さんと。

取材・文 眞子紀子
※この記事は2023年9月取材時点のものです。

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