2022

PROJECT04 | 移住者の声と行政 隊員活動レポート

声を集めるだけでなく、新しいご近所づきあいを。

石神惠美子(いしがみえみこ)さん | 2022年度

佐賀県庁の1階にある移住支援室は、これから移住を考える方や、既に移住した方に向けて情報発信や交流機会の創出に努めている部署です。「アフター移住サポーター」は移住支援室に所属し、移住者と出会い、そのリアルな体験の声を集めて佐賀県庁に届けることが仕事です。2021年12月に着任した石神恵美子さんは、1年間をどのように過ごしてきたのでしょうか。活動内容をレポートします。

移住者の声を聞くなかで生まれたアイデア

石神さんが着任されてからもうすぐ1年です。移住者のその後の声を聞く「アフター移住サポーター」として、これまでにどんな活動をされてきたのでしょうか。

石神さん(以下、石神) 着任してすぐの頃は、いろんな地域を訪問しました。主に地域おこし協力隊がいるところを中心にまわって、地域のことを教えてもらったり案内してもらったり。それが約3か月くらい。そして、自分で知らない場所を歩いて知らない人と話して……みたいなスタイルを、早い段階から実践し始めました。佐賀市内を普通に散歩して、そこで知り合った方と名刺交換して報告したら驚かれて(笑)。私、旅先でも地元の人と話すのが好きで、人見知りしないんですよ。

誰とでもすぐに打ち解けられる明るさは石神さんの魅力の1つです。

石神 佐賀で出会った移住者の方たちの声には、共通する意見がありました。とりわけ若い世代では、食の豊かさや、子どもを遊びに連れていける場所の多さをポジティブに捉える反面、同世代の友達をつくりにくいことや、マルシェなどイベントは多いものの、イベントに1人で行きにくいことなどが悩みとして聞こえてきました。こうした悩みを解決するために一つの企画を提案し、挑戦させてもらえることに。プロジェクト名を、GOOD NEIGHBOURS ONLY(グッドネイバーズオンリー)と言います。

まず、移住者の方に「グッドネイバーズオンリーカード」を配布します。カードに書かれたQRコードを読み取ってインスタグラムにアクセスすると、管理人の私や別の移住者の方とコミュニケーションが取れるようになります。移住してきて間もない孤立感や不安といった課題の解決に向けた取り組みです。さらに、インスタグラムアカウントでは、協賛をいただいたカフェを紹介していて、各店舗でカードを提示することで“ちょっといいことがある”仕組みにもなっています。これは、お得感というよりも、お店の方やその常連さんと、移住者の方の間に自然な会話が生まれることを期待したアイデアなんです。

グッドネイバーズオンリーは「親愛なるご近所さんたちばかり」という意味だそうです。その名の通り、移住者の方が身構えずにつながっていけるプロジェクトがスタート。既に、佐賀市ではカードの配布が始まっています。

カードを介して、カフェで自然な会話が生まれそう。市町ごとに異なるカードの絵柄は、すべて地域のデザイナーによるもの。

"グッドネイバーズオンリー"の幕が上がるとき

グッドネイバーズオンリーは、ありそうでなかった、移住者と地域の人をつなぎながら移住者の声を拾う仕組みです。どんな風にアイデアが生まれ、どんな思いでプロジェクトを進めているのでしょうか?

石神 グッドネイバーズオンリーのアイデアがどこで浮かんだかは、覚えていません(笑)。でも、私は元々カフェが好きで、海外に行ったときもよくカフェに寄るんですね。それがヨーロッパだと、アジア人は見た目で外から来たのがわかるから声をかけられやすいんです。「どこから来たの?」って聞かれて「日本」って返事すると盛り上がって……。そういうのを移住者の方にも経験してほしいと思ったんです。

カフェのように、ある場所での人との出会いは記憶に残ります。旅から帰っても、またそこへ戻りたいと思うのは、そういう場所がある街ですね。(自分がいなくても)あのカフェは今日も営業しているかな、あの店員さん今日もおいしいコーヒーを淹れているんだろうなとか、ふと思いを馳せる。カフェは人と人の交差点というか、ランダムに人が集う空間の象徴として好きなんです。例えば、私の場合ロンドンに暮らしていたのですが、バッキンガム宮殿を見るよりも、いつも行ってたカフェでコーヒーを飲むほうが「戻ってきた」感じがします。海外では、自宅でもなく、職場でもなく、ほっと一息できる第三の居場所としてカフェやパブをサードプレイスと呼んで重要視する動きがあります。日本でもそういった文化が広まるといいなと思います。

今回お邪魔したのは佐賀市内にある古書とコーヒーのお店「PINE BOOKS(パインブックス)」さん。市内を散策していてお店を見つけ、洗練された雰囲気とセンスの良さにほれ込み飛び込み営業したそうです。

石神 でも「佐賀はシャイな人が多いから、店員さんはあまり話しかけないかも」と、協賛をいただいたカフェのオーナーさんが話していました。店員さんが話しかけたいと思っていても、実際は観光客と住んでいる方の見分け方って難しいですよね。そこでグッドネイバーズオンリーカードがあれば、話すきっかけができるんです。実は、このカードで受けられるサービスはあえてどこにも書いていません。理由は、モノを目的に行ってほしくないから。誰かと出会うときのわくわくを目的に、カフェへ足を運んでほしいなと思っています。

カードを持ってカフェを訪れたら、きっと素敵なことが待っています。

素敵なご近所づきあいが広まっていきますように

石神さんのプロジェクトに共感し、グッドネイバーズオンリーへの協賛を決めた店舗は佐賀市内だけで、既に29店舗を数えます。苦労もあったけど、地域で活躍する先駆者から話を聞き、モチベーションを維持してきたと石神さんは言います。

石神 協賛のお願いをしたお店は、いずれも好意的に受け止めていただいて、ほとんど断られていません。とある佐賀生まれ佐賀育ちのオーナーさんは「佐賀県外での暮らしについて聞けるのがいいですね」と話してくれました。一方、ご自身も移住者でお友達をつくるのに苦労したとか、もともと転勤族で地域になかなか馴染めなかったとか、移住者の方と共感できる経験をお持ちのお店の方もいます。プロジェクトを進めていくなかで、皆さんにはすごく支えられました。その場で「石神さんも移住者だから、今日はドリンクおごるよ!」と言ってくださったり、皆さん優しくて。

この1年、モチベーションとしては浮き沈みもありました。そもそも、移住者の定義づけが難しくて。お話を聞いた方から「移住したのは10年前だけど、それでも移住者なの?」と言われたことがあって。確かに……どうなんだろうと思ったり。そんなときには、有田町で移住・定住支援を行っている灯す屋の佐々木(元康)さんに、「移住者とは?」という題で話を聞いていただいたりしました。他にも励みになったのは、佐賀へ移住してきて、地域に貢献している人の存在です。例えば、伊萬里百貨店の村上武大さん。ご自身のスキルを活かして、地域商社として伊万里のモノをオシャレに商品化しているんです。ハートが熱くて、私財を投じて地域貢献しているのがすごいと思います。

移住者の声と行政をつなげるだけでなく、移住者と佐賀で暮らし続ける人々をつなげる石神さん。あたたかいご近所づきあいが広がりそうです。

石神 佐賀市でスタートしたこのプロジェクトを、県内へ広めていきたいと思っています。今後は、インスタグラムのフォロワーさんとゆるく集まったりという企画もしたいです。他にやりたいこととしては、移住者が集う場所としてコミュニティガーデンを作ってみたりといろいろ試案中です。とにかく、あっという間の1年でした。

こうして、1年を駆け抜けてきた石神さん。佐賀へ移住した方にはぜひ、グッドネイバーズオンリーカードを活用してもらいたいです。そして、佐賀に暮らしている人やちょっと遊びに訪れた方にも、もし、街のカフェでグッドネイバーズオンリーカードを持っている方を見かけたときは、ぜひ話しかけてみてもらいたいです。その一言から、佐賀でのご近所づきあいや、新しいつながりが始まっていくかもしれません。

取材・文 橋本高志
※この記事は2022年10月取材時点の記事となります。

(参考リンク)
・GOOD NEIGHBOURS ONLY (@goodneighboursonly)

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