2022

PROJECT05 | 子どもと居場所 隊員活動レポート

想いを持った誰もが子どもの居場所になれるように。気軽に相談できる仕組みづくりに奔走。

草田彩夏(くさだあやか)さん | 2022年度

なんの制約や約束がなくても気軽に立ち寄ることができる。見守ってくれる大人がいる。「子どもの居場所立ち上げサポーター」は、こどもたちにとってそんな心の拠り所となる居場所をつくる仕事です。2022年1月に「子どもの居場所立ち上げサポーター」として着任した草田彩夏さん。最初の1年はどんなことに取り組んだのでしょうか。お話を聞いてみたいと思います。

できることから少しずつ。自転車で公民館をまわる日々。

東京から佐賀へ移住をした草田さん。佐賀での暮らしと仕事は今までとは少し違う進み方だったようです。新型コロナウイルス感染症の影響もまだまだ残っている中でどんな活動からはじめたのでしょうか。

草田さん(以下、草田) 具体的な業務が決まっていたわけではなかったので最初は何から始めていいかわからず手探りでした。SML(同じ県庁採用の地域おこし協力隊)の同期のメンバーや県内の協力隊の仲間たち、佐賀県が委託する、子どもの居場所の支援をしていただいている一般社団法人さが・こども未来応援プロジェクト実行委員会(以下、こどもプロジェクト)の皆さんたちにキーパーソンを紹介してもらうことから始めました。自分ができることを重ねているうちに気が付いたら8か月くらい経ち、今は忙しい日々です。

手探りと言いつつも実直な活動を歩み続ける草田さん。いつも明るく穏やかな雰囲気と芯のある行動が道を切り開いているようです。

草田 とはいえ、着任してすぐのころは新型コロナウイルス感染症の影響もあり、子どもの居場所どころか、児童館さえも閉じている時期でした。まずは、色々な場所に行ってお話を伺おうと思っていた矢先でしたので、困り果ててしまいました。

それでも何かできることを、と思い自転車で行ける圏内の公民館などをひたすらまわりながらヒアリングをしていました。東京にいたときから車の免許は持っていたのですが、ペーパードライバーだったので、当初は車の運転もできず……。ひたすら自転車で爆走していました(笑)。その時はこれは意味があるんだろうかと思うことも正直ありました。でも後々になって、あの公民館の取り組みに参加されていた方が子どもの居場所に興味を持っているとか、どの地域が何の活動をしているのかなど思いがけず役に立つことがありました。地域を捉える重要性を肌で学んだ気がします。

コロナ禍という難しい状況の中でも少しずつ自分にできることをしてきた草田さん。一見何につながるのかわからないような小さなことの積み重ねが確実に次へのステップへつながっています。

自転車でまわりながら佐賀の土地勘もつかんでいった様子。今は車にも慣れてきたそうです。

課題から生まれた気軽に相談できる新しいツール

新年度が明けて、コロナ禍の影響が少しずつ落ち着いていくにつれ、県内の子どもの居場所へ足を運ぶようになった草田さん。いろんな人から話を聞くうちに、ある課題に気が付いたそうです。

草田 県内のたくさんの居場所に行かせていただきました。その中で、子どもの居場所の立ち上げに関していくつかの課題が見えてきたんです。

1つは、子どもの居場所に興味のある方が、こどもプロジェクトとの関係性がないと、立ち上げに関するサポートを受けにくいということです。私が人づてに、居場所を立ち上げたい方と繋がって、相談に乗る、というのも大切ですが、県域でその対応を進めるのには限界があります。このままだと、子どもの居場所を立ち上げたくても相談に乗ってくれる相手がいることを知らないままの人がいるのではないかと思いました。

いつも心強い仲間だという認定npo法人地球市民の会の武富さん(佐賀市の子どもの居場所コーディネーター)と草田さん。一緒に子どもの居場所の運営をサポートしたり、企画したイベントに協力してもらったりしているそうです。

草田 同時に、人づてに紹介をしてもらい相談に乗ったとしても、その後の継続したコミュニケーションの機会をつくることがなかなか難しいという状況がありました。最初の相談から2,3か月してから「あれ?あの人どうしてるんだろう?」と少し間が空いて思うことがあって。その間にもし解消できない不安が重なって、せっかくの意欲や想いが消えていくようなことがあればもったいないと思ったんです。

そこで、誰でも気軽に相談できて、継続的なコミュニケーションやフォローアップがしやすいように「子どもの居場所なんでも相談室」というLINEアカウントを開設しました。

見えてきた課題から生まれたLINEアカウントは0からはじめて約3か月で70人もの人が登録しているそうです。もう少し具体的な活用方法を聞いてみましょう。

LINEアカウントを広く知ってもらうために初めてプレスリリースを書いたり、マスコミへの投げ込みもしたそうです。佐賀新聞にも記事を掲載してもらったことで一挙に県内へも情報が拡散されました。

広がってきた子どもの居場所。子どもたちのそばに、居場所であれる人が増えていってほしい。

LINEアカウント「子どもの居場所なんでも相談室」が生まれたことで、これから子どもの居場所を立ち上げたい人はもちろん、立ち上げた後のサポートもしやすくなったようです。LINEアカウントを通してどのようなやり取りをしているのでしょうか。

草田 LINEアカウントを通して、気軽なコミュニケーションをとることができるようになったのはもちろん、子どもの居場所に関する資金の情報や、他地域での取り組みなども定期的に届けることができるようになりました。このアカウントは私だけではなく、こどもプロジェクトの方と一緒に運用しています。

私は子どもの居場所立ち上げサポーターなので、入口の部分はサポートしやすいのですが、どうしても居場所が立ち上がったあとの継続的なサポートまではできないこともあります。たとえば、こども食堂の食材が足りないときに提供先を見つけたりとか、子どもや保護者の関わり方に悩みがあった場合に参考となる情報を伝えるなど、その都度で必要なサポートがありますよね。そういった部分をこどもプロジェクトの方と連携することでフォローしています。

それから、子どもの居場所に興味を持たれている方だけでなく、中には社会福祉協議会(以下、社協)の担当の方などもこのアカウントに登録をしてくださっています。定期的な情報提供や、気軽なコミュニケーションが取りやすくなったことで一緒に子どもの居場所に関する相談に乗ってくださる方が地域に増えてきたと感じています。

課題を掘り下げ具体的なアクションにつなげられたのは草田さんの洞察力と行動力があってこそです。

草田 タイミングが良かったのもあるのかもしれないのですが、実は私が活動をはじめてから、子どもの居場所の数が増えています。着任当初は、任期である3年の間に佐賀県の20市町の中で、子どもの居場所がない市町のいづれかに1つでも新しい居場所が開設されることが目標とされていました。まだ1年目ではありますが、ちょうど今まで子どもの居場所がなかった地域で始めてくださる方が現れて、当初の目標は達成されました。当初の目標が達成されたからおしまい、というわけではなく、これからも、それぞれの市町で子どもたちの身近に居場所があるようになれば……と思ってます。

それから、次の課題として、子どもの居場所を始めた後に、子どもたちがなかなか来ないという声や地域からの協力が得られないといった悩みを聞いています。居場所が「だれでも来ていい場所」ということを発信していったり、理解を得るためにはどうしても市町行政や学校からの協力も必要になります。そういった部分もさらにサポートしていけたらと思っています。

初年度から大活躍の草田さん。個人的な目標は、最終的に「存在として子どもの居場所であれる人が増えていくこと」だそうです。「もちろん居場所があったらうれしいけれど、子どもを見守りあたたかく受け入れるマインドを持った人が1人でも増えていくことが子どもの安心につながれば嬉しいです」と笑顔で話してくれました。これからの草田さんの活動から目が離せません。

取材・文 門脇恵
※この記事は2022年9月取材時点のものです。

県内の各所で、出張版子どもの居場所なんでも相談会(相談窓口から派生したリアルイベント)も開催しました。いろんな方法で情報を届けては次の課題を探っています。

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