PROJECT05 子どもと居場所

助けを求める場所ではなく、 日常的に“そこにある”こどもたちの居場所

一般社団法人さが・こども未来応援プロジェクト実行委員会
内川実佐子さん
小野真由美さん

取材・文:池田愛子

PROJECT 5

家庭でも学校でもない「子どもの居場所」の重要性が高まっています。家庭や社会が抱える課題が複雑化し、いつでも守られるはずのこどもたちが安心して過ごせる場所が減っているからです。人と触れ合い、のびのびと過ごすことで養われるであろう自己肯定感や、人や社会と関わる力を育む機会が失われているのが現代社会です。
「ただいま」と言って「おかえり」と返ってくる。なんの制約も約束もなくても気軽に立ち寄ることができる。見守ってくれる大人がいる。そんな“ほっと”できる場所があったら、こどもたちはより豊かに成長できるはずです。
佐賀県には、そんな「子どもの居場所」を支える一般社団法人さが・こども未来応援プロジェクト実行委員会(以下、こどもプロジェクト)があります。今回は、こどもプロジェクトの内川実佐子さんと小野真由美さんに、「子どもの居場所」に関わるきっかけや、その思い、今抱えている課題についてお話を伺いました。

黄色信号だからこそ、青信号のふりをする

「こどもの貧困」が社会問題として取り上げられるようになって久しいですが、この問題の根底にあるのは、経済的な困窮ではなく、「関係性の貧困=社会的孤立」だと言われています。核家族化や働き、ひとり親世帯の増加などにより、こどもたちを取り巻く環境は大きく変化しました。
内川さんたちは、特別なときに特別なこどもが行く場所ではなく、日常的に“そこにある”こどもたちのための場所を支えていきたいと話します。

内川さん(以下、内川) 子どもの居場所って言うと何か特別な問題を抱えている人が行く場所だと思われがちですが、そうではないんです。私自身もこどもの頃はいつも学校帰りに近所のお家にお邪魔させてもらっていました。自宅だとまだ手のかかる年下の兄弟がいて落ち着かなかったのかもしれません。その近所の家は、事務所と住宅がつながっていて、毎日そこに「ただいま」って帰っていました。何をするわけでも、何か特別なことをしてくれるわけでもなかったのですが、自由に過ごさせてもらえることで私は育ててもらったのだと思っています。 この子はこういう問題があるから、ここに来ていい、来ちゃいけない、とかではなく。本当に気軽な気持ちでのびのびと過ごせる場所があることが、こどもたちの豊かな未来と成長につながるのだと思っています。

そうやって見守っているうちに、もしかしたら家庭に問題を抱えているのかも、と気づくこともあるそうです。孤立したこどもたちは自分が困っていることにすら気づけず、SOSを出せないことも。そのうえ親への愛情から「黄色信号のこどもほど、青信号のふりをする」ことが多いそうです。

内川 誰もが気軽に立ち寄れるからこそ、何か問題を抱えているこどもも通いやすいですし、親御さんも安心して通わせられるんです。それに、そんなに簡単には問題を抱えているかどうかなんてわからないんですよ。2年、3年と見守っているうちに、もしかして…と気づくことがほとんどです。 こどもは、どうしても大好きな親をかばいます。「これを言ったらお母さんが悲しむ」「恥ずかしい思いをする」と平気なふりをする。世の中には仕方がないことや、どうしようもない時もあるじゃないですか? 誰も責められないし、責めてもいいことなんてないんです。親も本当は困っていても、恥ずかしさや意地もありますし、人に頼れず自分が我慢したり、結果、こどもに我慢させることになったりするんです。だから、手を差し伸べるときも、自然と負担にならないように寄り添うことが大切です。

どんなこどもにも、通うことで人と触れ合い、より豊かな成長を。そして、なにか問題があったらそっと手を差し伸べる。「子どもの居場所」は、いつも陽だまりのような温かさとやさしさであふれています。
おおらかで懐の深い内川さんですが、「子どもの居場所」に関わるきっかけはなんだったのでしょうか?

原動力は “かっこいい大人” へのあこがれ

「自分の子育てが終わったらこどもに関わるつもりなんてなかったのに、こどもたちが感動させてくるのよ~」と茶目っけたっぷりに笑う内川さん。原動力は「かっこいい大人になりたい!」という憧れだそうです。内川さんの思う「かっこいい大人」とはどんな人なのでしょうか?

内川 子育てや介護がひと段落した10年ほど前にご縁があって、社会や地域の課題を自発的にみんなの力で解決していく市民活動に関わるようになりました。 こどもってかわいいけど、大変じゃないですか? 暴れるし、言うこと聞かないし。もう子育ても終わったし、私はこどものことはいいかな? って思っていたんです。 でも、市民活動の中で、こどもに関わる機会ができて。たとえば、小学生のこどもたちが、地元のことを学びながら発表したりするのを見守ったりしていたんです。そしたら、ぐんぐん成長する姿に感動させられちゃって。そんなことが続いて気がついたら、こどもの世界にどっぷり(笑)。最初は嫌だったんですけどね~。こどもって本当に感動させてくるんですよ!

ほがらかに笑う内川さん。人を包み込むあたたかさがにじみ出ています。

内川 こどもプロジェクトに誘われたときは、ちょうど孫が小学校にあがるタイミングでした。私も孫と一緒に学び、成長しよう。この子が大人になったときに佐賀を安心・安全なまちにしたい、という思いでこどもプロジェクトへの参加を決めました。 こどもプロジェクトのこともそうですが、市民活動に関わったきっかけは、かっこいい大人になりたかったからなんです。かっこいい大人っていうのは私の中では“人のために時間を使える人”なんです。10年前に市民活動の先駆者だった先輩を見て、人のために時間を使える人ってなんてかっこいいんだろう。私もそんな大人になりたいって思ったんです(笑)。

内川さんのようなかっこいい大人たちが「子どもの居場所」を支えているからこそ、こどもたちは安心して過ごせるのかもしれません。次は、こどもプロジェクトではどんな風に「子どもの居場所」を支えているのかを、事務局スタッフの小野さんに伺いました。

こどもたちのために活動する大人を支え、つなげる仕事

内川さんも大絶賛の素敵な笑顔の小野さんは、今年の春から、こどもプロジェクトの事務局スタッフを務めています。昔からこどもが好きだった小野さんは関東で保育士として働いていましたが、平成29年に自身の子育てを地元でのびのびとしたいという思いで、当時の佐賀県庁の地域おこし協力隊1期生としてUターン移住したそうです。

協力隊の3年間の任期を終了するとともに育休に入った小野さん。これまでずっとこどもと関わる仕事をしてきた小野さんですが、育休後はこどもプロジェクトのスタッフとして、“こどもを支える大人”を支援するお仕事をしています。

こどもたちの笑顔を見るのが一番の楽しみです、と話す小野さん。(写真提供:門脇享平)

小野さん(以下、小野) 私はまだまだ、子どもの居場所については勉強することばかりですが、協力隊時代にも、子育て支援を行う団体の中間支援的なことにも携わっていました。 こどもプロジェクトでは、子どもの居場所を運営するための情報や人、物、お金の動きのサポートをしています。たとえば、玉ねぎ農家さんが、玉ねぎがたくさん余ったから、こども食堂で使って欲しいけどどうしていいかわからない、と情報をくださったら、それを必要な場所に届けたり。自分の居場所では、こんなことをしているけれど、ほかの場所ではどうなんだろう? と迷ったときには横のつながりを提供したり。支援の仕方はさまざまです。 こどもプロジェクトが発足して4年が経ち、少しずつ個々に活動されていた「子どもの居場所」同士のネットワークも広がり始めています。ですが、まだまだこども食堂ばかりの地域や、学習支援が主になっている地域などの偏りがあったり、子どもの居場所がまだない地域もあります。

こどもが自分らしく生きる力を身に着ける場所づくりを心がけてるという子どもの居場所「ぺぺんち」。

ぺぺんちの居間。ここで放課後宿題をしたりボードゲームをしたり、子どもたちが自由に過ごします。

内川 本当は1校区に1つ子どもの居場所があるのが理想です。今後は公民館などとも連携しながら広めていきたいと思っています。数年前と比べるとだいぶその「子どもの居場所」の重要性が認知されはじめています。最近は市町役場でも、こういったこどものための支援の担当課や係ができはじめているんですよ。

絡まった社会課題を優しく解きほぐしながら話す姿と、おふたりの終始明るい笑顔にふれると、こちらも自然と笑顔になります。こどもたちのために相談に訪れる人の心に火を灯し、次への活力を渡しておられることがうかがえました。
多くの人とのふれあいを通して、さまざまな価値観を知り、成長していく佐賀のこどもたちの未来が楽しみです。

これから益々重要性が高まってくる「子どもの居場所」。次の記事は、そんな「子どもの居場所」を立ちあげるサポートをするお仕事の募集のお話です。
「子どもの居場所立ちあげサポーター」とはどんなお仕事なのでしょうか?

取材・文:池田愛子

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