2023
PROJECT05 | 子どもと居場所 隊員活動レポート
柔和な笑顔で会う人に安心感を与える草田さん。2021年に東京から佐賀へ移住し、「子どもの居場所立ち上げサポーター」として県内を駆け巡り、子どもの居場所の立ち上げを支援してきました。こどもたちのために、と志に燃える草田さんの活動を伺います。
居場所立ち上げ支援のためにLINEアカウント「子どもの居場所なんでも相談室」を1年目の活動の中で立ち上げ、相談対応や情報共有など細やかにフォローをしてきた草田さん。県内の子どもの居場所に変化はあったのでしょうか? まずは改めて「子どもの居場所」と「子どもの居場所立ち上げサポーター」のことから聞きました。
草田さん(以下、草田) 「子どもの居場所」とは、基本的にこどもたちが自分たちの足で行くことができて、大人たちの見守りの中で安心して過ごせるような場所、という位置付けをしています。地域の人たちがあえて居場所として開いている、という感覚に近いと思います。特に条件もないですし。
居場所をつくってみたいなと思う人がいらっしゃったときに、もろもろの悩みに対してお話を聞きながら、立ち上げまでのサポートをしていくのが「子どもの居場所立ち上げサポーター」です。背中を押していったり唯一の味方になったりするのが求められている姿勢なのかなと思います。背中を押すために、気持ちを聞きながら言語化して「つまり、こういうことがしたいんですね」という想いの翻訳をする。居場所の立ち上げを検討されている方の中には、強い意志でこれをやります! と決まっている場合もあるので、その場合は、求めていることや悩んでいることを聞いて必要な資源(人や組織など)に繋いでいきます。
草田 県内の居場所は私が来た時は50カ所くらいでした。まだ居場所のない市町があったので、1つの市町に1つは子どもの居場所があるようになるといいな、と居場所がない市町に行き、今は県内で75カ所くらいになりました。地域の方とは昨年立ち上げたLINEの相談窓口を通して繋がったり、役所の方が繋げてくださったり。そういう体制があるのは、去年の活動があったからかなと思っています。「子どもの居場所」というと「何課?」とたらい回しにされることが多かったです。なので、1年目は20市町全部まわって「子どもの居場所の担当者さん」を発掘するところからでした(笑)。
公式LINEには気軽に相談できる利点があるのですが、相談事がないと相談できないという課題もありました。他にも、地域の人に新たに興味をもってもらい、私にもできるかもという感覚を届けるために対面型のイベント「出張版 子どもの居場所なんでも相談会」を県内4エリアでやりました。居場所に関する説明、ゲストによる実践の紹介、個別相談の案内といったプログラムです。参加者は各回20人から40人くらいで居場所を立ち上げたい人だけでなく、すでに居場所をやっている人たちも来てくれました。居場所同士の連携にもつながって、私としてはすごくよかったなと思いました。参加者の満足度も高かったですし、ワークショップで居場所の悩みなども新たにでてきたりして。自治体の皆さんにも現場を知ってもらう機会になりました。
草田 1年目は居場所を県内にたくさん立ち上げることに注力していました。それはそれで必要なことなのですが、居場所の人の思いを聞いたり現場でこどもたちの様子を見たりすると、私は立ち上げのプロセスのみを伝えたいのではない、と気づきました。「居場所づくり」を通してこどもたちの「居場所感」をつくることが大切なのではないかと思っているんです。居場所という物理的な空間だけが正解ではなくて、究極的にどんな人がそこに居るのかということを考えると「人づくり」が重要だと思っています。
例えば、学校から家までや、お母さんが仕事に行って帰ってくる間にこどもたちが安心できる気持ちになれることがゴールだと思うと、誰かが「おかえり」って声をかけてくれたり、気を遣ってくれるだけでも良いのではないかと気づいたんです。「居場所づくり」にこだわりすぎて、こどもたちが安心できる環境を整えるということとの、手段と目的がずれていっている感覚に近いかもしれないですね。居場所をつくっていくことに正しさなんてないと思うんですけど、ただ場所があればいいわけではなくて、そこに“こどもたちにとっての”という、こどもたちを気に掛ける気持ちがちゃんとあるか、本質はそこだと思い始めました。
草田さんの丁寧な寄り添いで新たな居場所が立ち上がり、こどもたちが安心して過ごせる場所が増えてきました。さらに4回の相談会を通じて居場所を運営する人たちとの繋がりも深まったことで、新たな気づきが得られたようです。
1年目の活動から必要性を感じた「居場所感」と「人づくり」。この2つをキーワードに、2年目も加速度を上げて活動を展開してきた草田さんに詳しいお話を聞いてみましょう。
草田 こどもにとって「居場所感」を持てることが本当の目的だ、と気づいてからの2年目は、3つのことに取り組みました。一番最初に地域の皆さんのこどもとの関わり方や在り方を伝えるメディアを作りたくて「こどもたちのおとなりさん」というのをエッセイ的にInstagramにあげつつ、noteの記事にして1ヶ月に2本書いています。去年、居場所を50カ所くらい回ったんですけど、2年目だからこそ打ち解けながら安心できる空気感の中で、こどもたちとどう関わっているか、どういう思いでやっているのか等、地域で居場所づくりに取り組む皆さんから聞いた思いを書いています。記事を読んで、居場所の人から「本当、大事にしたいのこれなんですよ!」と言う声を聞くと私も嬉しいし、やって良かったと思います。
草田 2つ目はこどもにとっての「居場所感」を地域でつくり、広げていくためには正しい知識をみんなが知っていくことが必要なんじゃないかなと思い、こどもたちを見守るおとなが、こどもとのかかわりについて学ぶことができる講座「こどものためのおとなの授業」を企画しました。最終的には3回目の「地域の居場所での大人の“居方(いかた)”」というタイトルに集約されると思うのですが、“do”(何をするか)じゃなくて“be”(どう在るか)を伝えたかったです。“be”であればその人なりの“be”があっていいし、誰でもすぐにできる。少し微笑むとか表現方法はできる範囲でいい、ということを伝えたくて。
でも“be”を探るためには、相手を知ることからじゃないとわからないから、1回目はこどものことを知って、相手の立場に立って考えてみましょうと「こどもの発達とこどもの権利」をテーマにしました。「こどもだから未熟な存在として扱ってない?」「よかろう、と関わっていないか?」と。2回目は「こどもの話を聴く」というテーマで、こどもに対してどういう風に声を聴いたらいいのか具体的な話を講師の方にしていただきました。ここまで聞くと専門的な内容に聞こえるかもしれないですが、大事なのは“be”です。専門性じゃなくて市民性です、と話し、一人の人としてこどものそばにいてください、と伝えました。なんと、鹿児島県や青森県からも「受けたい」という声をいただき、参加者はオンライン含めて各回50人くらいでした。
草田 3つ目にこどもたちに居場所感を持ってもらうためのプロセスは地域に複数あると思うのですが、今、居場所づくり1本みたいになっていると感じていました。居場所づくりを広げることだけがこどもにとって心の居場所をつくることですよ、というメッセージを伝えてしまうことは違うんじゃないかと思って。背景には、行政の縦割り構造があります。
居場所づくりのサポートの先にこどもたちの「居場所感」をつくっていきたい。そこで、私の所属するこども家庭課が業務として担当している居場所と違う資源とも連携したいと思ったんです。地域の中には障がいのある子や外国籍のこどももいる。児童館や公民館も居場所と感じる場所になり得るかもしれない。そういうところを県庁で包括して考えていきたいと思ったんです。同じ目線で一緒にこどもたちにとっての居場所づくりについて意見交換をするワークショップ「こどもまんなか地域会議」を庁内の関係者30名くらいに協力いただき実施しました。
居場所を運営する人たちとより深く関わることで見えてきた、こどもにとっての「居場所感」という視点を広げていくための取り組み。こどもたちと関わる上で必要な情報発信などをはじめ、わずか1年での取り組みとは思えない展開です。
草田さんの軸にあるのはどこまでも「こどものために」という視点。思いと勢いはそのままに、3年目の展望を伺います。
草田 今年はこどもたちにとって本当にどういう環境が大事なのかを深掘りをしたからこそ、居場所づくりというのはそのプロセスの1つでしかないし、こどもへの関心を持てる人を増やしていくのが地域づくりだと考えて活動をすすめてきました。思い返すと、着任したときにやりたいと思っていたことの方向性と繋がっている気がして、協力隊になってめちゃくちゃ良かったと思いました。
3年目は「つなぐ」をキーワードにしたいと思っています。私自身のやりたいことを次のステップにつなげていきたいというのもそうですし、今やっていることを誰かにつなげていく、ということも考えています。1年目に種まきをして、2年目にちょっと育ってきたところもあるので、育った苗は私が持つんじゃなくて、誰かに育ててもらうようにしていきたいなと。居場所づくりの相談であれば私がずっと続けるよりも、市町の職員の人たちがやってくれることが一番いいなって。そうすると行政も居場所の人たちと直接やりとりするきっかけになるし、行政にできることはなにがあるかを考えてもらえる機会にもなるので。私がやるとちょっと押しつけっぽく感じてしまう方もいるかもしれませんしね。今年はそれぞれの自治体で担ってもらえるように、自発的な動きを促そうと思いながらサポートをしています。それは私が関わることでできることなので、3年目までにしっかりバトンを渡していきたいなと思っているところです。
草田さんが得た気づきは、私たち大人のこどもに対する意識や関わり方を根本から見直させてくれます。まずは自分なりの“be”を探ってみる。この“be”が幾重にも広がれば、こどもたちが安心して伸びやかに過ごせる地域が広がりそうです。草田さんの想いのバトンがたくさんの人に届きますように。
※この記事は2023年12月取材時点のものです。
取材・文 眞子紀子
<参考URL>
・こどもたちのおとなりさん
(Instagram) https://www.instagram.com/kodomo.otonarisan/
(note記事) https://note.com/shiny_hebe71/
・こどもためのおとなの授業 https://www.pref.saga.lg.jp/kiji00398071/index.html
・こどもまんなか地域会議 https://www.pref.saga.lg.jp/kiji00399464/index.html