2023

PROJECT09 | 市民活動と人 隊員活動レポート

誰もが安心して暮らせる世界を目指して

古泉志保(こいずみしほ)さん | 2023年度

人と人のつながりから社会課題の解決を目指すCSO連携型地域おこし協力隊「さがむすび隊」として、古泉志保さん(以下、古泉さん)は認定NPO法人地球市民の会に所属し、2022年の2月から活動しています。古泉さんのミッションは在住外国人に向けて、災害情報を母語で届ける防災ネットワークの推進ですが、着任してすぐにロシアのウクライナ侵攻が始まったことにより、急きょウクライナ避難民の受け入れに携わってきました。
青年海外協力隊や海外で暮らした経験のある古泉さんだからこそ、平和への強い想いと責任感で多くの避難民の受け入れのサポートを実現してきました。着任から1年半たち、現在の活動について伺います。

※CSO・・・Civil Society Organizations(市民社会組織)の略。NPO法人や市民活動団体、自治会といった組織・団体を包括的に呼称している。

やりとりを重ね、佐賀での心穏やかな暮らしを提供

官民連携でウクライナ避難民を受け入れる「 SAGA Ukeire Network~ウクライナひまわりプロジェクト~」の事務局として、応募者の対応から面談、航空券の手配など、受け入れるまでのやりとりを担当してきた古泉さん。どんな思いで取り組んでこられたのでしょうか。

古泉さん(以下、古泉) 他の自治体がウクライナ避難民を受け入れる際には、すでに国内にいるウクライナの方が身元引受人となり、その方を頼って日本に来ます。そんな中、佐賀の場合にはSAGA Ukeire Networkが身元保証人になっています。応募時点で時点でつながりがなかったとしても、日本が好き、逃れてきたい、という方を広く受け入れられる仕組みなんです。これまでに39人を受け入れました。応募してくれた方に英語でメールを返信して、オンラインで面談をし、じゃあ受け入れましょうか、となったら身元保証書を作って航空券を手配して、となんでもやってきました。

言語や文化の壁を越えてサポートをすすめる古泉さん。

古泉 これまでに39人の方々を受け入れてきましたが、応募自体は80件以上ありました。そのうち、オンライン面談だけでも約40回、そうした様々な手続きを経た上でようやく39人を佐賀にお迎えすることができました。残念ながらお断りをした方もいます。それもまた辛いというか。できれば全員きてほしいけど、こちらにもキャパがあるので…。

面談の時には、日本の中でもめっちゃ田舎だよということなど現実をちゃんとお伝えするようにしています。東京みたいに都会じゃないし、仕事がたくさんあるわけでもないし、そういうところでもいいんですよね、ってあらかじめ言っておかないと、来てから「こんなはずじゃなかった」となってしまうので。佐賀を選ぶ方は、「静かなところに行きたいんです」という方が来られている事が多いので、今のところ、そういった面でのギャップは少ないみたいです。

戦火を逃れ、多くのウクライナ人をサポートしてきた古泉さん。佐賀での平穏な暮らしを提供するために、奔走してきました。

暮らしに馴染めるよう、コミュニティ形成にも一役

SAGA Ukeire Network」の最前線に立つ、古泉さんたちの役割は、ウクライナから佐賀に受け入れて終わり、ではありません。佐賀での暮らしに馴染めるようにといろいろなサポートにも取り組んでいます。またご本人のミッションに対しても新たな動きがあるようです。

古泉 単純に受け入れておしまいというわけではなく、コミュニティ形成も大切にしています。日本の方とも触れ合って欲しいし、ウクライナ人同士でも仲良くして欲しいですし。佐賀に避難してきた者同士だからといって顔を合わせる機会がたくさんあるわけではないです。なので何回か催しをしました。参加率はイベント次第ですが、「防犯講話&かき氷会」の時は結構たくさんの方が来てくれました。かき氷もあわせて、楽しいよ感を出して「できるだけ来てね」と声をかけています。

ウクライナのワインをみんなで囲んで寄付を集めるイベントなどニーズに合わせていろいろトライしているそうです。

古泉 10月末にSPIRA(公益財団法人 佐賀県国際交流協会)が主催する「さが国際フェスタ」があります。SAGA Ukeire Network としてもウクライナの皆さんのことを知ってもらうきっかけにと、ブースを出す予定です。今のところウクライナの皆さんと一緒にボルシチと、フルーツを煮出したカンポットという飲み物を作り、ウクライナ人の学生さんがデザインしたTシャツを売ったりする予定です。

もちろん、ウクライナのことをしているだけではなくて、他にもいろんな活動をしています。元々のミッションとしては、災害時の情報発信として、防災情報を母語率100%で佐賀県内に暮らす外国人の皆さんに提供するためのネットワークづくりだったのですが、最近は少し変化がありました。SPIRAさんが災害時の情報発信に力を入れていらっしゃるので、防災情報の母語率100%にこだわるよりは、地球市民の会として、別のできることをやろうじゃないか! という話になっています。私が卒業する時に「多文化共生と言えば古泉!」と、市民活動という分野で言ってもらえるようなキーパーソンを目指していこうと思っています。

ウクライナ避難民を佐賀に受け入れてからも地域に馴染めるようにと心を配り、いろいろな支援を行ってきた古泉さんたち。多文化共生のためにできることを! と広い視野で新たな取り組みを模索しているようです。

少しずつ活動の方向性も見えてきたようです。

お茶会で楽しいひとときを。「多文化共生とジェンダー」の視点が今後のテーマ!

昨年から「世界とつながるカフェ」と題して多文化交流のイベントを開催してきた古泉さん。日本に住んでいる外国人の方がホストになり、その国独自の方法でコーヒーやお茶を煎れておもてなしをしてもらい、その国の文化など、本人から直接お話が聞ける交流の場です。活動を通して見えてきた卒業後のビジョンについてはどうでしょうか?

古泉 「世界とつながるカフェ♡ワールドTEAパーティー」はすごく楽しいです。たとえば「小城に外国人が住んでいるらしいよ」じゃなくて、ご近所の「○○さん」と、名前で呼び合える関係性づくりを目指しています。単純に「デレセさんとアズマラさんの話を聞きましょう!」だとなかなか人は集まらない。そこで「コーヒーセレモニーがありますよ」「お茶が飲めますよ」と楽しみを追加することで集客できるし、普段は出会わない人同士を結ぶことを目指しています。参加者からは「全然知らなかった国のことを知れて良かったです」と感想を聞いたり、参加者とホストで仲良くなってその後も遊びに行きました、という方もいらっしゃるので、そういう機会を今年も提供できるといいなぁなんて思っています。去年は7回やり、今年度は4回の予定です。

珈琲のいい香りとともに参加者の皆さんの顔もゆったりいい笑顔に。会話もはずみます。

古泉 私としては多文化共生とジェンダーをメインテーマとして考えています。例えば一緒にイベントをさせていただいた、アズマラさんとデレセさんご夫妻。旦那さんのデレセさんはもう10年くらい日本に住んでいて日本語ができて、マラソン選手なので仕事も確保されています。陸上部にも所属しているので友達もたくさんいます。だけど、奥さんのアズマラさんは日本に来てまだ1年未満で、日本語もできない。今は病院の食堂で働いているらしいのですが、どうしても情報や人脈が旦那さん経由になってしまいます。娘さんもいるのですが、お子さんの方が言語習得速度が速いので、どんどん日本語が上達していくと、アズマラさんだけおいてけぼり感があるというか……。どうしてもこういう時、女性の方が孤立しやすかったり、辛い立場のことが多いですよね。

私自身も海外生活において、青年海外協力隊という公的な立場だっただけでなく、なんの所属も後ろ盾もない専業主婦だったこともあります。だから多文化共生っていう時に、もう一歩踏み込んで、ジェンダーの視点というのが絶対にいるでしょ、って私は思っているんですよね。もうちょっとジェンダーの視点を前面に出す方向で、講師とかワークショップとかできたらいいな、と思って佐賀での起業を考えています。人の前で話すのは好きで、SDGsに関しては地球市民の会に依頼がくることが多いので、積極的に仕事をさせてもらって、ジェンダーの話もさせてもらっています。回を重ねて指名して仕事をお願いしてもらえるようになったらうれしいです。今後は卒業後を意識しながらの動きをし、強みを生かしてあと1年半でできるだけ学びたいと思っています。

卒業後の起業を目指して行動をスタートした古泉さん。ご自身の経験から発せられる言葉は、私たちにたくさんの気づきを与えてくれます。「世界とつながるカフェ♡ワールドTEAパーティー」のホストになってくださる方も募集中とのこと。楽しいお茶会に足を運ぶと、新しい世界の扉が開けそうです。

アズマラさんと古泉さん。たくさんの人に新しい出会いと気づきのきっかけを作っています。

取材・文 眞子紀子
※この記事は2023年10月取材時点のものです。

Topページへ