佐賀にはトレッキング初心者にもおすすめしたい低山や里山がたくさんあります。「低山トレッキングガイド見習い」は、そんな佐賀の山に登り、学びながらその魅力を伝えることで佐賀の山々のファンを増やす仕事です。
着任したのは高校、大学とワンダーフォーゲル部に所属し、専門学校で登山ガイドの勉強をしたという天野貴博さん(以下、天野さん)。こどものころから山は身近な存在だったそうです。山と出会ったきっかけやトレッキングガイドの仕事への思いを伺いました。
山梨県大月市で生まれ育った天野さん。はじめて山に登ったのは小学2年生のころ。山頂から見た富士山がきれいで楽しかったのが印象に残っているそうです。天野さんは今までどのように山と付き合ってきたのでしょうか。
天野さん(以下、天野) こどものころから山はとても身近な存在でした。トレッキングも好きですが、小学1年生のころからボーイスカウトにもずっと所属していて、アウトドアの活動も好きです。中学生のころは野球をしていたのですが、高校、大学時代はワンダーフォーゲル部に所属していました。16歳くらいから本格的に山に登っているので、人生の半分は山に登っていることになります(笑)。
天野
実は大学を卒業してから、新潟県にある専門学校で登山ガイドの勉強をしました。山はずっと好きだったし、得意だと思っていたのですが、そこで勉強してみてはじめて、自分の楽しみで山に登ることと誰かをガイドしながら山に登ることは全く違うのだと気づきました。
大きく違うと感じたのは、安全管理とエンターテイメント性の2つです。まずはお客さんの安全を守る。そのうえで、お客さんを楽しませるというのがとても大切だと思っています。一緒に歩いて、友達と話して、きれいな景色を見れたらいいっていうのは個人の楽しみ方。ガイドだったらやっぱり花や動植物の名前、山頂に行ったらそこから見える山々のことはもちろん、歴史だったり、自然全体の知識だったり、という部分も大切です。
専門学校ではトレッキングに限らず、林業やバードウォッチングなど様々なことを学んだそうです。卒業後はまっすぐトレッキングガイドになったのかと思いきや…いろいろなことがあったようです。
天野
専門学校を卒業してからは登山専門の支店もある旅行会社に就職しました。まっすぐ登山専門の支店に行きトレッキングガイドになるのだと思っていました。でも、思いがけず配属されたのは福岡の一般的な旅行会社の支店でした(笑)。バス旅行を中心に、電車や飛行機などを使ったツアーがメインで、その中に登山チームがある小さな支店でした。
トレッキングツアーだけでなく、ビール工場をはしごするバスツアーの添乗員や、年越し温泉ツアーの添乗員なんかも経験しました。いろいろなことを経験する中で自分の裾野が広がったと有難く思っています。
天野
専門学校時代に聞いた「富士山が高いのは裾野が広いからだ」という話が、今でも自分の行動原理の中にあります。山に登るからといって山に登ることしか知らなかったらいびつな裾野だと思うんです。山に登るからこそ、自然全体のことや、人と話すこと、時にはツアーを企画したり宣伝したりと言った一見関係なさそうなことも身につけていれば、よりたくさんのことができるようになるのではと思っています。
その後、念願だった東京の登山専門の支店にも配属になったのですが、縁あって旅行会社を退職し、福岡に戻ってくることになりました。本当はそのタイミングでフリーランスのトレッキングガイドとして独立するつもりでした。ところが、走り出しのタイミングでコロナ禍に入り、うまくいきませんでした。
でもそのおかげで、某警備会社の鳥獣害対策の仕事をすることになり、そこでもまた裾野を広げることができました。
前職では、鳥獣害対策の仕事をしていた天野さん。罠の狩猟免許をとり、毎日イノシシやアナグマをさばいていたそうです。まだまだ技術を極めていく途中だったそうですが、このプロジェクトを知りトレッキングガイドへの思いが湧き上がってきたそうです。
天野 前職もとても面白かったのですが、Facebookなどで専門学校や旅行会社時代の仲間たちがガイドとして活躍しているのを見ると、心のどこかで羨ましい思いがありました。もう1回挑戦したいと思い、家族と相談して今回の一歩を踏み出しました。
天野
この3年間をきっかけに、まずはトレッキングガイドとして生きていきたいのが1番です。そのうえで、それだけでなくトレランやノルディックウォーキング、アウトドアなど「外で遊ぶなら天野に任せておけ!」と言ってもらえるようになりたいです。
他にも山だけ案内して、ふもとの町を案内しないことにも違和感を感じていたので、山だけ、街中だけ、というのではなくフィールドを区切らずにいろいろな案内をできたら嬉しいです。
「トレッキングガイド見習い」と言いつつすでにたくさんのガイド経験をしてきた天野さん。佐賀という新しいフィールドでどんな裾野を広げるのでしょうか。佐賀の山々が益々楽しくなりそうです。
取材・文 門脇恵