災害、多文化、教育、福祉……。暮らしに関わるニーズは時代と共に多様化しています。今までは、暮らしを支える県民のニーズに応えるために、行政が支援や仕組みを整えることが一般的でした。しかし、ニーズが多様化してきた今、行政だけで暮らしを支えることには限界がきています。
このような背景をもとに、公共の新たな担い手のひとつとして、地域の課題に向き合う個人による市民活動が少しずつ成熟しています。そうして、地域の課題に取り組む市民活動をすすめる人が集まった社会組織を、通称CSO(Civil Society Organizations=市民社会組織)といいます。
今回県民協働課で募集する地域おこし協力隊は、市民活動を進めるために、人と人をつなぎ、民間団体(CSOや企業など)と行政をつなぐ役割をもった、CSO連携型地域おこし協力隊「さがむすび隊」です。ひとりでは解決できないことも、人と人をつなげることで課題が解決できることがたくさんあります。今よりちょっと、人と未来にやさしい社会の仕組みをつくる手助けをする「さがむすび隊」とはどのような仕事なのか、詳しく伺いました。
佐賀県庁では平成16年に県民協働指針が宣言されています。行政はもちろん、地域の課題に取り組むCSOや企業が手を取り合い、協働し社会をつくることを目指しています。「協働」とはどういうことなのでしょうか?
田島さん(以下、田島)
「協働」とは、対等な立場での関係性のもとに同じ目標に向かってなにかに取り組むことをいいます。微妙なニュアンスなのですが、「共同」は、単純になにかを一緒にやること。「協同」は、助け合ってともに何かをすること。少しずつニュアンスが違うなかで、「協働」という言葉を選んでいるのには意味があります。
長澤さん(以下、長澤) 県民協働指針においては、「異なる価値観や立場の県民同士、団体同士が対等な関係でともに、より幸せに、お互いに心地よく暮らしていけるような社会的仕組みをつくること」が宣言されています。
協働で一番大切なことは、話し合うことです。それは一方的ではなく、お互いにきちんと話をし、聴くこと。そのうえで、解決に向かっていくかということを話し合い行動にうつしていくことを「協働」といいます。シンプルなことですが、なかなか難しいことです。
田島
自分ではできなくても、他の誰かができることが世の中にはたくさんあります。たとえば、災害のとき。今年の夏にも佐賀県は豪雨に見舞われたくさんの被害が出ました。社会福祉協議会はボランティアの取りまとめを、CSOはそれぞれの強みを活かし、被災した住居の清掃や支援を、企業はボランティアで働くみなさんのための飲み物を持ってきてくれたり。みんなができることを持ち寄って、支え合っています。
長澤
災害支援を担当していて印象的だったことのひとつに、とある企業さんが被災者の支援に必要な備品を貸してくださったときのことがあります。現場としては本当にありがたくて、みなさん、その企業さんにお礼を言っていました。でも、逆に企業の担当さんからも「こちらこそありがとうと言いたい」と言われたんです。
普段の仕事は、いかに利益を出すかということが大切になります。お金のことばかりを考えていると、自分たちの仕事は一体なんのためなのだろう? と思うことがあるそうです。そんななか、社内一丸となっての取組が地域の人に「ありがとう、ありがとう」と言われる気持ちの良い取り組みができるということは、個人にとっても、企業にとってもとても嬉しいことだと言われていました。
私自身も元々民間企業から転職し、県庁で働いているので、その気持ちがよくわかります。普段は利益を追求している企業でも地域のためにも貢献できる。それは個人としても、組織としても、人として社会に関わっている実感をもつ大切な機会です。
田島
お互いにありがとうと言われて、ありがとうと返す。そういった取り組みをつないでいくことで、協働社会をつくっていくことが私たちの仕事です。
長澤 地域おこし協力隊は公務員でもありますよね。それをあえてCSOに預けて働いてもらうことで、どちらの立場にもなれる。そうすると、行政と民間をつなぐことができるようになります。まさにこのつなぐことというのが、県民協働課の仕事そのものです。地域おこし協力隊という仕組み自体が、協働社会というテーマと親和性が高いと感じています。
田島
行政と民間をつないでくれる人が佐賀県に根付いてくれたら、それは佐賀県にとって、とても有難いことです。行政と民間に壁があると協働社会はうまくいかない。この敷居をなくすのがある意味もう1つのミッションです。佐賀県にはたくさんの精力的なCSOがいます。その活動は様々で、こどもの居場所や災害支援、外国人在住者のサポート、地域づくり…。一方で、まだまだこの橋渡し役を担える存在が足りていない現状もあります。
長澤
特定の誰かひとりではなく、みんなが少しずつできることを合わせることが協働において大切なことです。今回「さがむすび隊」が配属される、さが市民活動サポートセンターの山田さんや地球市民の会の岩永さん、山路さんなどをはじめ、佐賀には他にもたくさんのキープレイヤーたちがいます。でも、まだまだプレイヤーが足りないのが現状です。
NPO法ができて30年経ちました。この30年でNPO法人の高齢化が進んだり、経営的にも活動を続けていくことが難しい団体もでてきています。また、ボランティアだからといって無償でなければいけないとか、儲けちゃいけないといった間違った思い込みや理解があることも、活動を継続していく上での課題となっています。
田島
本来ボランティアというのは有償無償に関係なく、個人の意志としての社会貢献活動のことを言います。CSOであってもどこかで活動を続けるうえでの利益(資金)を生み出さなければ存続することはできません。今、CSOに仕事として関わる新たな担い手が必要とされています。
長澤 逆に、企業は徐々にCSOのように利益が出なくても、社会的な課題にも積極的に取り組みつつあります。SDGsやCSRがそういった取り組みのひとつです。協働社会の枠組みの中で、行政とCSOのつながりだけでなく、企業とのつながりもこれからは益々増えていきます。こういった新たな局面で「さがむすび隊」の方には、人と人、団体と団体をつないでいってほしいです。
NPOも企業も、社会をよりよくするという大きなゴールは同じです。入りかたや関わりかたが違っても、手を取り合うことができるはずです。どんな立場でも手を取り合うにはちょっとした意識の壁を越えるだけでいいのかもしれません。
佐賀県ではともにより良い地域をつくっていくために、様々な地域課題を解決に導くノウハウを持ったCSOを積極的に誘致しています。スキルを持った人材の流入や新たな雇用を生み出すことで一層地域の課題解決につなげるためです。
田島
佐賀県にCSOが進出する(事務所や活動拠点を置く)といろいろなメリットがあります。県内の既存CSOと連携して地域課題の解決にあたる場合には「誘致CSO・県内CSOコラボ事業応援補助金」が用意されていたり、CSOの皆様から県や市町に新たな公共サービス事業の提案をしてもらい協働しながら実現する「佐賀県CSO提案型協働創出事業」が用意されていたりします。なかなか他県にはない取り組みです。
長澤
いろいろな取り組みをしていますが、そのなかでも、「ふるさと納税(NPO塔指定寄付)」の取り組みはとても好評いただいています。寄付額の90%を指定されたCSOに交付する仕組みになっており、資金調達が要のCSOのみなさんの力になっているようです。
こういった取り組みのおかげで全国的にもトップランナーと言われるようなCSOが佐賀県に集まってきています。その活動も様々で国際平和や国際協力、災害救助犬の育成・派遣、つらいと声をあげられない親子への支援など。どのCSOも独自の強みと人脈を持っています。
田島 つい先日も、CSO同士の交流会を開催したのですが、みなさん積極的につながりあっていてとても良い雰囲気でした。先進的な取り組みをしている団体が佐賀に拠点を構えていることでお互いに良い刺激になっています。
長澤 佐賀県はコンパクトなのが良いところです。全国でやれないようなことをパッとやれるスピード感もあります。トライ&エラーを一緒に繰り返し、チャレンジできる環境があるのが佐賀県の魅力のひとつですね。「さがむすび隊」の方には佐賀でいろいろなチャレンジをしてほしいです。
佐賀県は人と人とのつながりを大事にする県です。“さがむすび隊”がつなぐ新たな人と人、行政と民間。その化学反応によって生まれる新たな社会のすがたは、誰しもにとって、今よりも少し心地いいものになるはずです。広い視野と熱い志を持った仲間たちと、佐賀県から世界にはばたく仕事をしてみませんか?
取材・文 門脇恵