vol.2 2023.3.14

[特別対談] 店が集まるから「まち」ができる。ローカルな店舗経営からはじまる街づくり。

西塔大海(SML編集長)× 船津脩平(株式会社RELI.STYLE 代表取締役)

SML編集長の西塔です。このコラムでは、地域おこし協力隊というローカルキャリアのその先に広がる、あまり知られることのない世界を、皆さんにご紹介していきたいと思います。

今回のゲストは佐賀市の街中でブックカフェ「木と本」や女性のためのプライベートフィットネス「RELI.STYLE」などの店舗を経営する船津脩平さんです。店舗経営の前はドラゴンボールに憧れて空手の世界チャンピオンにまで登りつめたつわものです。

 

西塔 今日はよろしくお願いします。空手の世界チャンピオンでもある船津さんが、佐賀で人気の店舗を経営するようになった経緯など、培って来られたローカルキャリアについて教えてください。

船津 ただただ店舗を作って軌道に乗せることをひたすらやっている商店主ですよ(笑)。現在はカフェ2店舗、ヘッドスパ、レンタルスペース、フィットネス2店舗の計6ブランド・6店舗を営んでいます。それぞれに特徴を持たせて自分のブランドを立ち上げています。 カッコよく言うと、佐賀の空洞化したシャッター街を人気店に変えることができれば、同じような悩みを抱えている、他の地域でも展開できるのではないかと思い、まずは地元の佐賀でチャレンジしています。地域づくりという観点からよくいろんな人から「面白いことしているね」と言ってもらうんですけど、やっていることは隣のカフェと同じ、ただ目指しているところが地域づくりではある。

01/店を増やして「まち」をつくる

西塔 同じ84年生まれでドラゴンボール世代で、アメリカでバックパッカーをして、地域おこしをされていて、とても親近感を感じます。船津さんが佐賀の中央通りにお店を出そうと思ったきっかけは?

船津 大学で地域デザインを学び、地域づくりのあり方の自論を20歳頃から考え出して、結局お店が集まったところに「まち」ができていると思ったんです。人はお店という行きたい理由があるから来るわけで、その集合体が「まち」になるんじゃないかと気づいた。今の佐賀は、郊外にある小さい店の集合体であるショッピンモールに多くの人がとられて街中は空洞化している。

それなら誰かがまちを作ればいいし、店舗経営の手腕がすごいということはたくさんの店舗を持っているということにつながるんじゃないかと。これは地域が求めていること、自分が独立して経営者として生きること、全て叶えらえる生き方になりうるのではないかと思った。それに魅力度ランキング最下位の佐賀ですけど、逆にワーストワンの中で頑張っていることはモチベーションになるかなって。

西塔 店が集まったところに「まち」ができる。まさにそのとおりだと、聞いていて鳥肌がたちました。地域づくり、まちの盛り上げ、さらに自分のやりたいことができる、そのど真ん中が店舗経営だったんですね!

船津 もし、全国で店舗経営することが成功なら、この場所には店を出さないことが正解だと思います。その証拠に大手の店はこの街中に1つもありません。僕は「まちづくり」、「街中の活性化」のビジョンのための経営だと思っているので、珍しいポジションかもしれないですね。 ただ、難しいことをやっているとは思っていなくて。商売とかやっていない家系で生まれ育って、商店街との関わりもなく、お金もコネもなかったので、小さく個人事業から始めました。そして、軌道に乗せ、ちゃんと利益を出せるようになり、その利益を元に1店舗目を借りてスタートしたんですよ。

02/スーパーマンかと思いきや!?石橋を叩くように確実に

西塔 ローカルキャリアで1店舗目って大事だと思うんですよ。何者でもない20代の若者がまず個人事業で3年間で稼げるようになり、2店舗目に踏み出したということがすごく着実なステップのように見える。最初の個人事業はフィットネスジムだったんですよね?

船津 そうです、個人事業としては3年半くらいでしたね。ずっと石橋を叩くやり方で来たから、僕のしてきたことは誰でもやれると断言できると思っていて。大事なのはいい加減な投資をするのではなく、確率を十分に高める手を考え抜いて「これならほぼ確実に行けるだろう」というのを進めること。

僕の場合は1店舗出すと、最初の1年はほぼ赤字で1年後からトントンになって2年経つ頃には利益が十分でるようになっています。だから1店舗目の利益を元に2店舗目を出し、1店舗目で出た利益で2店舗目の赤字を相殺しています。会社としては全体の資金が減っていかないまま最初の1年を過ごせる。必ず既存店の利益が次の出店の最大赤字幅になるところまで育ててから次の店を出すようにしています。だから基本的には会社が傾かないような固い進め方をしています。10店舗が目標なのでもうちょっとスピード上げたいんですけど、性格ですね。

西塔 船津さんはポジティブで明るくてどんどん進めるスーパーマンなんだろうなって思ってたんですけど、ものすごく着実な経営をされているんですね。ローカルキャリアで店舗をやってみたいという人は結構いますが、2店舗目で異業種に展開する人や他の業種で店舗をつくる人は珍しいです。船津さんの場合は店舗展開を前提とした経営の考えがあるからなんですね。

船津 なぜこんな立地でお店を出すのか、なぜわざわざ違うブランド、業態を出すのか。それは同じエリアに巨大な同じ店があっても仕方ないと思っているからです。小さくてもいろんなお店があることがまちなので。一人で全部は難しいので「地方でお店を出したいという人」をどこかのタイミングで上手に絡めて、そういう方の店舗経営のサポートとかできるようになっていくと歯車が何馬力にも変わっていく気がしてます。

03/店ごとにコンセプトを描く

西塔 船津さんのお店は特徴のあるお店だと思いますが、コンセプトの作り方は?

船津 ジムをつくるにしても同じようなジムはつくらないというのは基本で、そこはまず意識しています。近隣で6店舗・ブランド経営していますが関連性をあまり表面に出していません。ジムとカフェが系列店ということは認識されないようにしています。各店舗それぞれに育つようにブランディングしているので通りがかった人がそれぞれの店にいっても関連性に気づくことはないですし、A店からB店へ人を流すことも基本的にしていません。各店舗が集客できるようにしているから「あそこもここの系列なんですか!?」と驚かれると嬉しい。

西塔 2店舗目である人気のブックカフェ「木と本」のコンセプトは何ですか?

船津 ブックカフェ「木と本」は8年目になりますが、地域にあるものはつくらないというのを大前提に、ニッチなところをついています。「木」と「本」それぞれに漢字のにんべんをつけると「体」を「休」めるになる、という言葉遊びで、本でも読みながらロングステイしていただくカフェが成り立つと思った。当初はジム展開から考えていたんですけど、しっかり体を鍛えるところから休めるお店の展開というのは面白いなって。

実は店舗の中に3つのカテゴリーがあり、カフェのフードドリンク、サブスクで利用するライブラリーや会員制『フェロー』の仕組み、さらに奥にはヘッドスパが併設されています。飲食店の許可をとっている店舗で美容の許可をとるのは珍しいし取りにくいことだったんですけど、ヘッドスパも「体」をゆっくり「休」めるというコンセプトに合っているので。今は増えてきましたが、7年前にヘッドスパを始めた頃は佐賀にはヘッドスパは少なかったですね。でもいまだにカフェと併設しているところはないし、全国的にも珍しいと思います。

西塔 本を読んで感情を揺さぶられて、たくさん頭を使った後にヘッドスパできるのは最高の環境ですね。

船津 僕も面白いと思っています。ただ根本的な店舗のビジネススキームはつくれていない。そんなものないと思うけど。課題となるのは時間あたりの客単価が伸びにくいこと。コーヒー1杯でロングステイ歓迎と言っていますから。この街中で何百人も来ない。ロングステイということでおかわりの注文や、ヘッドスパ、場所が気に入ったらサブスクでくる、などでなんとか良いバランスが取れています。

04/思いもよらない出会いも大切にする

西塔 船津さんはあまり町づくり界隈にいないキャラだと思うんですよね。「空手の世界チャンピオン」というのは表面の話で、その裏側にはすごく分析的に経営や町のことを考えてる視点があるんですね。若い人たちにここまで培ってきたノウハウや知見を伝えていくことも考えているんですか?

船津 自信満々に言えるほどのノウハウはできていないと思うんです。店舗を増やせば増やすほど経営や管理の難しさを感じ、不測の事態に一生懸命向き合う日々です。その中で少しずつレベルは上がってきていると思いたいですが(笑)。 10店舗を掲げてきたのでまずはそこをしっかり集中して達成し、そこを脱した時に今よりどれくらい力があるか分からないけれど、どれくらい若い人たちに還元できるか?と思っています。ただ、経営している人って他の人からいろいろ言われたくないんじゃないかなとも思ってて。自分のやり方でやりたいんじゃないかなと思うと伝える必要あるのかな?とも思います。

西塔 私もすごくそれを感じます。本当に起業する人って誰の言うことも聞かずに勝手にやって失敗しながらできるようになっていくんですよね(笑)。まずは10店舗に向けて進んでいくということでしたが、ここからの4店舗はどんなお店にしようと構想されているのですか?

船津 なんでも良いというのが前提だけど全く一緒ではいけない。そして当然、成功確率が高くないといけない。ということから方向性やコンセプトなどはだいたいまとまっています。ただ、まさかの出会いとかあるじゃないですか。うちで言えばヘッドスパがそうであったように、私の引き出しにはなかったけれど人との出会いがあったからできた。そういった出会いにも期待しつつ、お店の展開ができればと思っています。

西塔 これだけ石橋を叩くように仕組みを作り、構想をしっかり描きつつも出会いによってごろっと変わる可能性も残しながら計画をつくっていくんですね。

船津 その通りです。うちで3年ほど店長経験をして店舗経営を学んだクルーが近くに美容のお店を出しました。こうやって直接的じゃなくても学んだことで、店舗のすぐ近くに店を出すというパターンもどんどん増えて欲しいと思っています。

05/まちを盛り上げる人を増やしたい

船津 スタッフ一人一人と深く話すと、こんなこと考えていたんだと特有の発想があるんですよ。まちなかで起業しようという人が増えれば私が発想しなかったようなお店も自然に増えると思います。美味しくて魅力的なカフェを作ることはできるけど経営ができない人がもったいないと思う。せっかくまちづくりに関心があって、センスがあってお店づくりもいいのに、経営が分からないという人はもったいないと思う。そういう人が増えれば自然とお店も増えると思うんです。どうしたらよいのかと、そこにすごく関心があります。

西塔 お店を出してみたいけど経営のことがわからない人にとって、船津さんのところで店長をやるのがすごく経験につながりそうですね。コーヒーを煎れたり、接客が好き、この仕事を通してまちに貢献したいという人たちが店舗で経営をしながら学べて行けたらすごく素敵だと思います。

西塔 今回のテーマ、ローカルキャリアに関して経営の仕方やまちを元気にする方法などすごく面白い話を聞かせていただきました。例えば13年前、個人事業を始めようとしていた直前の船津さんを想定して、今の20代の若い人たちが「私もまちづくりの仕事を店舗経営を通してやりたいんです」と来たらどんな言葉をかけますか?

船津 面白い質問をされますね。実際にそういう経験がありまして、自分で思いつくままに書いた本が意外にロングセラーで週に1、2冊ずっと売れていて、読んだ人からDMが来たりする。案外そういうところに夢やロマンを感じている人がいるんだなと。そんなに甘いことではないし、人生かかっていることなので、腹が決まっていてあとはどこで店をやるか悩んでいるという段階の人だったら「ぜひこの辺の佐賀の中心市街地でやろう!」としっかり言います。

独立して生きると決めて店をやると決めている人なら、始めたらしっかりやると思うので。ただ、振られることもよくあります。独立するかも悩んでいる人には強く言わず、しっかり考えるように促します。内心はどんどんきて欲しいし、佐賀県内でもいろんな地域で来て欲しい場所があると思いますけど、僕はまずは中心市街地やろうよ、という気持ちですね。

西塔 なるほど。船津さん、本日は非常に楽しいお話ありがとうございました。あと3時間くらいお話を聞きたかったです(笑)。

船津 脩平さん

〇プロフィール
1984年多久市生まれ。株式会社RELI.STYLE代表。九州大学芸術工学部では地域づくりや都市デザインを学ぶほか、空手家として世界チャンピオンの経験も持つ。フィットネスジムのトレーナーとして出発し、現在は佐賀市の中央大通り沿いにカフェやヘッドスパなど5店舗をかまえる起業家に。エリアリノベーションを目標に掲げ、空き店舗を改装した人気店を生み続けている。

株式会社RELI.STYLE 公式サイト
https://relistyle-inc.com/
Topページへ