2023

PROJECT02 | 里と人 隊員活動レポート

身近にある山野草を、気軽に取り入れる暮らし

日髙涼子(ひだかりょうこ)さん | 2023年度

温暖な気候と豊穣な大地を擁する佐賀県。その豊かな恵みは里山にももたらされ、四季を通して豊富な種類の山野草が自生しています。里山を歩いて季節の山野草を摘み、旬の味わいを食卓に生かす魅力を広めるのが「山菜料理人見習い」の日髙涼子さん(以下、日髙さん)です。2年目を迎え、最近では学んだことを還元し、広めるイベントを開催しているそうです。どんな学びがあったのか、お話を伺いました。

佐賀の暮らしの中で山野草の世界が広がる

運転が大好きという日髙さんは、県内の里山を駆け巡り、山菜を通していろいろな人たちに出会って山野草の魅力をたくさん吸収しているようです。

日髙さん(以下、日髙) 佐賀県内をたくさんまわってきたので、だいぶ地名も分かるようになってきました。最近は佐賀市富士町の他、鹿島市での活動の割合が増えてきました。佐賀は土地が豊かで、どの時期も野菜が豊富です。だから、実は山野草文化はそんなに根付いていないんです。もちろん、里山の地域では暮らしの知恵として山野草を活用されてきた方もいらっしゃいますが、佐賀は山より平野が広いです。山野草を日常のものとして料理や文化に取り入れているのは、寒さが厳しい北国の方が多いように思います。でも、山野草を使ってきていないからこそ、佐賀県には純粋に「面白い」、「知りたい」と感じてくれる人が多いような気がします。また意外と若い人の方が、健康や自然、丁寧な暮らしに興味があり、実践している人が多いことにも気付きました。

移住というと「すごい田舎、地方への移住!」というイメージですが、普段はまちなかに暮らしているため、そんなに移住してきたという感じはしないそうです。

日髙 着任当初から大切な学びの場となっている佐賀市富士町にある「森の香 菖蒲ご膳」さんでは、仕込みや盛り付けを手伝いながら、新しい山野草が登場したタイミングで、その特徴や料理方法などを教えてもらっています。2年目に入り、インプットも増えたことで「こんな風に使えるって聞いたのでやってみたいんです」とお願いするように変わってきました。1年目は知らないことだらけで受け身なことが多かったですが、最近はこれを教わりたいというのが出てきて、それに応じていただいて、という感じになってきました。

鹿島市では特によく「農家民宿あんちゃん家」さんにお世話になっています。「この山野草がこんな風に使えるみたいだよ!」「じゃあ一緒にやってみよう」と、山野草のことについて同じような目線で一緒に試しながら挑戦させていただいています。山野草が身近で、暮らしの延長として楽しむ、というスタイルがしっくりきています。

自然豊かな佐賀での暮らしを十二分に楽しんでいる様子の日髙さん。陶器市にも毎年行って、だいぶ器が増えたようです。器がお好きなのも料理人見習いならでは。積極的な学びの結果、山野草の知識も増えて新たな活用法にもチャレンジしています。

最近は草木染めにも興味津々。ビワの葉やセイタカアワダチソウなどの身近な山野草でも染色ができるそうです。草木染めや竹細工など、食べるだけではない山野草の活用方法も模索します。

山野草と遊び、生活に取り入れる

山野草の楽しみ方を知るためにいろいろなイベントや講座にも参加してきた日髙さん。今では菖蒲ご膳さんで「野草茶に親しむランチ」を隔月開催し、野草茶の新たな楽しみ方を山野草ファンと分かちあっています。山野草との付き合い方にも新たな気づきがあったそうです。

日髙 山菜料理人見習いとは、山菜のことや山菜料理のことを地域の方から学んで、県内の方に知ってもらうのがミッションです。私自身は山菜のプロになる、というよりは、山菜を通して自然やその地域のこと、そこに暮らす人のことを知ってもらうきっかけをつくりたいと考えています。

移住当初は一般的な山菜しか知りませんでしたが、菖蒲ご膳さんに通うようになり多くの山野草を知ることができました。1年通い、やっと年間通してどんな山野草があるかが分かってきたので、一覧を作り、この月にイベントをやるならこの植物、みたいに書き出して目星をつけています。

季節ごとに移り変わる山野草。食べられるもの、食べられないもの。かわいいもの、活用できるもの。用途も見た目も様々です。

日髙 2023年の3月から菖蒲ご膳さんで「野草茶に親しむランチ」をスタートし、隔月で開催しています。普段、お店では4種類の山野草をブレンドした野草茶を出しているのですが、イベントでは1種類ごとにテイスティングしてもらっています。それぞれの味の違いを体験してもらい、自分の好きなブレンドをつくって飲んでもらったり。違いを楽しんでもらっています。さらに、私が見つけてきた野草茶1種をイベントごとに加えて飲んでいただいています。

こういったことに興味があるお客様なので、テーブルをつなげて食事をしていただくと、会話が弾んで名刺やインスタグラムの交換会になったり。それが面白いと言ってくださる方もいて「しめしめ、そうだこれこれ」という感じで、やりたかったことができて私も嬉しいです(笑)。

外の方に向けてやっているものではありますが、菖蒲ご膳のお母さんたちにも楽しんでもらいたい、というのもあります。普段はお客さんと触れ合うことの少ない調理場のお母さんたちにも、お客さんと触れ合ってもらえたら、もっと楽しいだろうなって。そういう機会をもっと作っていきたいです。

ランチ会をきっかけに、新たな野草茶を試すなど、お客様だけでなく菖蒲ご膳のお母さんたちと楽しく山野草の世界を広げている日髙さん。何より、野草を通して人と人をつなぐ機会が増えていることに喜びを感じているようです。

この1年でたくさんの山野草ストックを集めたようです。お茶にすると思いがけない味わいや色を楽しめることも。

山野草を摘める拠点を作りたい

活動を通して、人と人を繋ぎ、山野草のある地域の魅力をもっと伝えたいと悩む日髙さん。山菜をテーマにした独自のイベントを開催するために拠点となる場所を探しているそうです。どんな場所を希望しているのでしょうか?

日髙 実際に山野草を採ったり、摘んだりできる場所を探しています。「山菜」というワードを入れると皆さん「採りたい」と言われる方が多くて。私もせっかくイベントをするなら少人数でもいいから、実際に山野草をみなさんと採りたいという思いがあります。一緒に、採ったり摘んだりできた方が楽しいし、かわいいし、映える。採ってみる経験をすると次回から自分でも採って暮らしに取り入れることができるので、そういうことができる土地を探しています。

理想としては私もその土地に住んで、「区役」もやって、ちゃんと地区の方にも「山野草を摘んで楽しんでいる人がいる」と受け入れてもらえたらうれしいです。その上で、地区の人から「ここ使ってもいいよ!」と言ってもらって。そこへ他の地域から人を呼んで、できれば地区の人とも一緒に山野草を楽しむ、というのが1番やりたいことです。

なんてことのない道端にもたくさんの宝物が。

日髙 見晴らしが良くて自然が広がっているところを探す中で、暮らすなら鹿島が良いなと思うようになりました。鹿島で出会った女性たちの野草や自然の遊び方が私が面白いな、やりたいなと思うことと近いと感じています。無理をし過ぎない、ちょっとだけ丁寧な暮らしといった自然体なところが良いなって思います。

山野草の魅力を知ったことで日常は大きく変化し、今は野草を見つけて「あっ!」思う瞬間が増えたという日髙さん。「ちょっと気持ちが上がる」そんな瞬間が佐賀に来たことで増え、その感覚をもっと伝えたいと話します。そのためにも理想の古民家探しに力が入ります。3年目も楽しみですね。

取材・文 眞子紀子
※この記事は2023年9月取材時点のものです。

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