PROJECT010 島と人

島の人と仲良くなって、漁船の上で 釣れたてのイカを食べてほしい。

唐津市島担当集落支援員
古川万佑子(ふるかわ・まゆこ)さん

取材・文 門脇恵

PROJECT 10

うつくしい海、心地よい風、ゆるやかに流れる時間。「島暮らし」と聞くだけで、わくわくする気持ちになる人は多いのではないでしょうか。もちろん、実際に島で暮らすことは楽しいことだけではありません。しけのときには船が出ず、島外に出られないこと、限られたコミュニティの中で生きていくこと、仕事の選択肢が少ないこと…。海に囲まれて暮らすことは、まぶしいほどの魅力と荒波のような厳しさの両面を持ち合わせています。

佐賀県唐津市には7つの島があります。そして、そこで暮らしを営む人たちがいます。古川万佑子さん(以下、古川さん)は唐津市の離島担当集落支援員として島と関わり6年になるそうです。古川さんに、島と関わるしごと、島の魅力、これからの島の未来について伺いました。

7つの島のひとつ、小川島。海から見ると平らなのがよくわかります。玄海灘に浮かぶ島ですが、波がおだやかなのも特徴です。

島の人と一緒に楽しみながら次につなげる

古川さんは唐津市の島担当集落支援員として島に通いながら、島の人のやりたいことや、島留学、7つの島間の交流の手伝いをしています。具体的にはどんなことをしているのでしょうか?

古川さん(以下、古川) いろいろなことをしているのですが、たとえば、島のおばちゃんたちが加工品の幅を広げたいと思ったときに、県の補助制度を使って新しい加工所を作る手伝いとか。今は一緒にそこで商品開発をしています。

最近つくったのは、島で採れたさつまいもを使ったさつまいもチップス。さつまいもをどれくらいの厚さで切るかとか、商品の分量はどれくらいにしようとか、最初はラベルも自分たちで作っていました。徐々に口コミで広がって注文が増えてきています。

この前、島のお母さんたちと物産展に出店したときには、みんなで相談してその場でカマスやイカを焼いて販売しました。やってみたら、お味噌汁があってもよかったね! とか、サザエで混ぜご飯もあったらよかったかも! と、どんどんアイディアが膨らみます。そうやって一緒に行って、その場を楽しんで、またそこから次に活かしたり、新しいアイディアを見つけたりしています。

島でつくられたさつまいもは、土に塩分が含まれているおかげでとても甘くなるそうです。さつまいもチップスは口コミでファンが広がっています。

机に座って、うんうんとうなりながら仕事をするよりも、島のみなさんと一緒に体験した中で手探りで仕事をつくっている古川さん。古川さんの存在は島の人にとっても楽しみのひとつであり、大切な存在です。

古川 最初は島の人から「誰だろう?」と不信に思われたり、すぐに打ち解けられず大変な時期もありました。でも、今は島に行くと「まゆちゃーん! 会えた~!」と言ってくださいます。私にとってはそれが励みでもあり喜びでもあります。なにか新しいものごとに出会えば「次はこれを島の人たちと一緒にできるんじゃないか?」とか。島にいないときにも、一緒にいないときにも、気づいたら島のことをベースに考えています(笑)。私にとっては、仕事というよりも自分も島の人として一緒に楽しむ! できることをする! と思っています。

島で暮らすおばあちゃんたちと話す古川さん。この日は島の郷土料理「なべぞうせ」をご馳走に。鍋雑炊がなまって「なべぞうせ」と呼ばれるようになったそうです。くじらとさつまいもが入った甘い雑炊です。

島のみんなの楽しみ! 島留学と島民交流

古川さんのお仕事の中でも核になっている2つの取り組みがあるそうです。1つは島の小中学校に島外のこどもを迎え入れる島留学。もう1つは、7つの島の島民交流会です。どちらも島に欠かせません。そして、何よりも島のみなさんの楽しみにもなっているそうです。

古川 島留学は島の人たちからの「こどもたちの声を絶やしたくない」という声からはじめた事業です。平成29年に馬渡島と加唐島の2校でスタートしました。島外からお子さんのいる家族に来ていただいて、島内の学校に通いながら、島ならではの暮らしを体験してもらうことで、留学生にとって島が第2のふるさとになれば嬉しいなと思っています。

島の人たちも「俺が磯釣りを教えちゃるよ!」とか、こどもが寝坊したときには起こしに行ってくれたりとか(笑)。とにかくみなさんあたたかくて、こどもにとってはおじいちゃんおばあちゃんが増えたような感じです。一緒に島に来たお母さんからも、親や親せきが増えたような、そんな家族みたいな関係で接してくれて嬉しいと好評です。こどもの声がすることが、島のみなさんにとっての喜びの1つです。

今は受け入れが増えて、馬渡島、加唐島、小川島、高島の4つの島で島留学を実施しています。実際に島で暮らし、島の人と関わる人が増えていくことで、島の外の人にも中の人にも、すこしずつ変化がおきて新しい流れが生まれてくるのではないでしょうか。

小川島の小中一貫校。全校生徒は9人です。運動会は島民のみなさんで開催するそうです。小さなコミュニティだからこそのあたたかさがあります。

古川 もうひとつ欠かせないのが、7つの島の島民交流です。8年前に、七つの島合同で物産展に出展したり、スポーツ大会をすることからはじまりました。意外かもしれないですが、このスポーツ大会が始まるまでは島同士の交流の機会はほとんどなかったんです。同じ唐津の離島といっても、島と島との間に定期船はありません。唐津市本土と島の定期船しかないので、他の島に行く機会はほとんどないんです。

物産展では各島が特産品を持ちより島ごとにブースをもって販売し、来場された方にはとても好評です。島民同士が同じ会場で取り組むことで相乗効果もあります。
スポーツ大会は持ちまわりで毎年違う島で開催をします。スポーツの種目もその年の開催担当の島ごとに考えています。他の島民も最大限に楽しめるよう、また盛り上がるようソフトボールやキックベースボールをするときもあれば、別の種目のときもあります。でも本当に大切なのは、スポーツ大会のあとの懇親会という名の飲み会です(笑)。

このような交流を始めて、普段は話すことのない島民同士がさまざまな垣根を越えて関係が生まれました。同じ漁場でお互いの存在は知っていても話す機会がなかったおじちゃんたちが、この交流会をきっかけに連絡先を交換して、海で出会ったら電話しあう仲になったり。漁の仕方を教え合ったり、芋の苗を交換し合ったり。同じように島で暮らす者同士、「お互いがんばろうね!」と励みになっているんだと思います。

島で最期を迎えられるようにできることは、笑顔を増やすこと

古川さんは、島に行くのも、島の人と話すのも、島の食べ物も、みんな大好きだと話します。島から人がどんどん減っていく中で、島での営みを続けることに徐々に限界が来ています。この背景には基幹産業である漁業の衰退があります。気候変動や乱獲など様々な要因が考えられます。古川さんに大好きな島の未来について伺いました。

古川 島の基幹産業はやっぱり漁業です。漁師を生業にする人が多いのに、年々漁獲量が減ってきていると聞いています。原因は、たとえば、台風が来る回数が以前より減ったとか、海の温度が下がらないとか…。温暖化の影響で今まで越冬しなかった魚が越冬するようになり、磯場の藻を食べつくしてしまったり、海藻を食べつくしてしまうムラサキウニが増えたり。唐津の島だけではない問題だとは思うのですが、島だけでは立ち向かうことが難しい自然環境の変化もあります。

何にしても基盤となる産業がしっかりしていないと、気持ちにも生活にも余裕がなくなっていきます。だから、これからは”育てる漁業”に取り組んだり、今までは市場に出だせなかったものに付加価値をつけ販売したりと、新しいやり方への転換も必要になってくると思います。

でも、言うのは簡単ですが、実際にこれを進めるのは本当に大変です。資金的なこと、将来性のこと、チャレンジをするにもあらゆる面で体力がないとできないことです。

18歳からずっと漁師をしている前川さん。漁師歴53年の大ベテランです。笑顔が素敵で、気さくに話しかけてくれる頼れる存在。

一筋縄ではいかない島の現状。その中でも「島で最期を迎えたい」という声を古川さんはたくさん聞いているそうです。

古川 島の人は、本当に島のことが大好きなんだなと感じます。生活ができなくて島を出ていくことになった人もできるなら島に帰りたいという人もたくさんいます。今、島で暮らしている人たちが笑顔で幸せに住みつづけられるように、島を離れた人にも帰る場所が残せるように、少しでもなにかしたいといつも思っています。

現状を考えると、すぐに人口を増やしたり、産業を改善させたりというのは本当に難しいです。でも、私自身も島に通いながら島側の人として、一緒に楽しみながらできることをしていくことで、少しずつ島のみなさんが島で幸せに暮らせる未来をつくっていきたいです。

唐津の7つの島は本当にいいところです! ぜひ島を知って、島を好きになってほしいです。島の人と仲良くなって、運が良かったら漁船の上でイカが食べられるかも!(笑)

厳しい現状を目の前にうつむくのではなく、笑顔を広げていくことで、古川さんは島と未来にたくさんの笑顔をと可能性を増やしているのだと感じました。

さて、次の記事はそんな、7つの島で3年間暮らしながら、島の人たちの話を聞き「七つの島の聞き書きアルバム」をつくるお仕事のお話です。「七つの島の聞き書きすと」とは一体どんなお仕事なのでしょうか?

取材・文 門脇恵

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