PROJECT10 島と人

島の記憶をアルバムに ゛七つの島の聞き書きすと”

佐賀県庁 さが創生推進課
地域振興担当
副課長 寺﨑裕子(てらさき・ゆうこ)さん
係長 亀﨑真人(かめざき・まさと)さん

取材・文:門脇恵

PROJECT 10

このたび佐賀県庁では「七つの島の聞き書きすと(地域おこし協力隊)」を2名募集します。島で一緒に暮らし、島の人と仲良くなり、島のみなさんから聞いた話をアルバムにまとめるお仕事です。島で暮らす人たちの記憶の中にあるたくさんの思い出。大切な島のお祭り、文化、料理などを記録に残し受け継ぐための七つの島の聞き書きアルバムをアルバム制作委員会を立ち上げて島のみなさんと一緒につくりませんか?

七つの島の聞き書きアルバムとはどのようなものでしょうか。7つの島の魅力とともに、担当の佐賀県庁さが創生推進課地域振興担当の寺﨑裕子副課長(以下、寺﨑さん)と亀﨑真人係長(以下、亀﨑さん)に詳しいお話を伺いました。

みんなが心のすみで、いつか形にしたいと思っていた島のいとしい宝物を残すこと

佐賀県にある7つの離島はすべて唐津市にあります。玄海灘に浮かぶ7つの島には、唐津市内にある定期船乗り場から行くことができます。各島50~300人が、島で暮らしています。唐津市役所にはもちろん離島振興室がありますが、佐賀県庁にも離島振興担当があります。市にも県にも離島振興の担当があるのはすこし不思議な気がしますが、寺﨑さん、亀﨑さんは普段はどんなお仕事をしているのでしょうか。

寺﨑さん(以下、寺﨑) 普段、県の離島振興担当は、本庁と、唐津市内にある佐賀県の出先機関の玄海水産振興センターと島を行ったり来たりしています。でも、実は佐賀県庁で離島振興を担当していると言っても、県庁単独でできることはほとんどないんです。地元の自治体の方との連携や、その人的、財政的サポートが主な仕事です。つまりは、唐津市役所(以下、唐津市)の離島振興担当のみなさんと一緒に連携していくということですね。唐津市の皆さんも同じ気持ちだと思うのですが、佐賀県としても離島というすばらしい環境や歴史、そこで暮らすみなさんの幸せを守りたい。人口減少や漁業の衰退などいろいろな課題がありますが、島に暮らし続けたいと思うみなさんのことを最大限サポートしたいと考えています。

ここ数年、いろいろな事業で島とのご縁が続いているという寺﨑副課長。各島の特産品にもかなり詳しくなられたとか。島のお母さんたちに島に伝わる料理のレシピを教えてもらいたいそうです。

亀﨑さん(以下、亀﨑) いつもは本庁で仕事をしていますが、月に何度も島に通っています。この前は、ある島で行われた石割豆腐という、今は商用では作られていない固い豆腐づくりの体験授業を手伝いに行ってきました。なにが良いってやっぱり島のみなさんがとにかく素敵なんです。70代のおばあちゃんたち3人と1時間くらい話していたんですが、みなさんすごくかわいらしくて。瞳をきらきらさせながら島の話を聞かせてくれるんです。

昔はシャンプーなんてなかったから、大豆を炊いたあとの汁をシャンプー代わりに使っていた。だから、石割豆腐をつくる時は、島の女性の多くが集まって取りに並んだとか。今は生い茂っている山の頂上も、昔はたくさんの人が住んでいたから切り開かれた畑で遠くまで見渡せたとか…。

寺﨑 今回「七つの島の聞き書きすと」になっていただく2人の方には、小川島に家を1軒ずつ用意することになっています。小川島は現在300人ほどの人が住んでいます。最盛期の昭和30年代頃は今の4倍くらいの1,200人の人が住んでいました。この何十年かで1,000人近い人が島を離れているんです。

島の人たちも減りゆく島の人たちや、変わっていく島の姿をひしひしと感じつつも、どうにもできないことがたくさんあります。そんな中で、みなさんの記憶の中にある島の遍歴を記録に残したいと、島のみなさん、唐津市のみなさんと立ち上げたのが今回のプロジェクトです。

亀﨑 島の人たちと話を重ねる中で、島民のみなさんや唐津市のみなさんも、心のどこかで消えていく島の宝物を守りたいという気持ちをもっていることがわかりました。県としてできることはたくさんの人をつなぎながら、みなさんの島への愛をつないでいくサポートをすることだと思っています。

小川島の区長さんと話す亀﨑さん。島で暮らすみなさんの笑顔がまぶしい

書くことも大切だけど、一番は笑顔で聞くこと! みんなの笑顔が島の未来につながる

「七つの島の聞き書きすと」として過ごす3年間のイメージは、おおまかに次のようになります。

1年目 まずは島の人たちへのあいさつまわりと関係性づくり。後半からすこしずつアルバム作成の準備を始めます。聞き書き、ライティングの技術の習得もしっかり進めます。どんなアルバムにするかも外部のデザイナーさんなどと相談しながら少しずつ決めていきます。

2年目 島に行っては話を聞き、まとめていきます。2年目には1冊目のアルバムの完成。この年に3,4冊目までアルバムができていたら良いペースなのではないでしょうか。無理をせずに相談しながらすすめていきます。

3年目 7つの島すべてのアルバムの完成を目指します。卒業後の次のキャリアへの準備の時間も必要そうです。3年間で習得したライティング技術やコミュニケーション能力を活かして次のステップへ。

亀﨑 今のところ想定しているアルバムのイメージは、7つの島ごとに1冊の50PくらいのA4両面カラー刷りの冊子を想定しています。最初に郷土史年表みたいなのを入れて、島の遷移をたどり、島で暮らすひとへのインタビューなどを入れたいですね。特に、お祭りや漁のこと、暮らしや料理のことを入れられたらと思っています。島のみなさんから写真をお借りして、昔の写真を集めたページなんかもたくさん入れたいですね。まずは、七つの島の聞き書きすとの2人でアルバム製作委員会を立ち上げていただいて、徐々に協力してくれる人を増やしていけたらと思っています。

島のみなさんに見てもらって島への愛を一層深めてもらえるようなアルバムにできたらと考えています。もちろん、内容はまだ仮のものなので、一緒に相談しながらつくりましょう。

寺﨑 最初のうちは私たちや唐津市の離島担当の集落支援員・古川さんと一緒に島に通うことが多いと思います。島のみなさんは、最初は固いかもしれないですが、慣れてくると本当にやさしいです。七つの島の聞き書きすとに求められるのは、島民の皆さんの笑顔を引き出していただくことです。もちろん、ライティング能力や編集能力が必要ですが、外部の専門家にもサポートしてもらいながら、ステップアップしていけたらと考えています。

亀﨑 おじいちゃん子、おばあちゃん子の人は向いているかもしれませんね。あと、長い話を聞くときに時計を見ない人とか(笑)。話が長いのはそれだけ思いがあるから。でも、本当に島のみなさん素敵な方が多いので、あっという間に時間が過ぎていきます。定期船に乗り遅れて帰れなくならないように注意してくださいね!

週末はお子さんと一緒に佐賀のいろんなところに遊びに行くという亀﨑さん。走るのも好きなスポーツマンです。

寺﨑 仕事だけど、仕事じゃなく、暮らしごと仕事を楽しめると、かけがえのない3年間が過ごせると思います。自分の人生を考え直したり、人とのつながりを持って土地に根差した暮らしかたをしてみたいと思ったりする人には良いきっかけになるのではないでしょうか。みなさんのことを私たちも全力でサポートしたいと思います。

亀﨑 特殊なところに入っていく上に3年間という期間の制約もあります。そこをプレッシャーに感じてほしくないなと思っていて、いついつまでにこれをせよ! というのを押し付けたくないと思っています。だから、3年間のイメージはあくまでイメージです。1年目にしっかり関係性を作って、様子を見ながら、そのあと他の島に広がっていってほしいです。

「小川愛してる~♪」カラオケ上手な面白い人が多い小川島

暮らしの舞台になる小川島のみなさんは大のカラオケ好き。みなさん本当に歌がお上手で演歌を歌うときには、いつも「愛してる小川~♪」と替え歌したり、旦那さんの名前を入れて歌ったりしているそうです。小川島ではどんな暮らしになるのでしょうか。

寺﨑 小川島は、呼子の港から船で20分くらいの小さな島です。定期便は1日4便。夏は5便になります。歩いてまわっても1時間くらいでまわれる、平坦でとてもコンパクトな島です。漁業を営む人が多いですが、「めぐりあいらんどおがわ」という農業体験のための宿泊施設があったり、小中学校も活気があって、島留学にも取り組まれています。戦後はクジラ漁で盛り上がっていたこともあり、鯨見張り台が今も残っています。昔は家や学校の窓からもクジラが見えたそうです。

鯨見張り台。捕鯨が盛んだったころはここからクジラを見張っていたそうです。小屋の中には座るとちょうど目線の先に水平線が見えるように設計された窓があります。

鯨見張り台の中から窓を覗いた様子。水平線がきれいに見える。

亀﨑 捕鯨が盛んだった時代に九州中から出稼ぎに来る人たちを受け入れてきた文化が下地にあるので、自然に人を受け入れることができる方たちがいらっしゃいます。行政ともパイプを持ってお互いの要望をすり合わせながら協働することが多いです。

鯨見張り台の中に残っているクジラ漁の絵からは当時の様子がうかがえる。小川島の記憶がのこる貴重な場所です。

寺﨑 七つの島の聞き書きすとの方に住んでいただく予定の古民家も、区長さんや島民のみなさんが協力して探してくださいました。着任するまでの間に、すこし改修して、安心して住んでいただける環境を整えたいと思います。

亀﨑 島に行くのも、島の新鮮な海産物を食べるのも、島の人もきっと大好きになると思います。島での暮らしを満喫してもらえたら嬉しいですね。

みんなの笑顔を引きだし、島の宝物をつないでいく「七つの島の聞き書きすと」。玄海灘に浮かぶ、うつくしい七つの島で宝物のような3年間を過ごしてみませんか? たくさんのご応募をお待ちしております。

取材・文:門脇恵

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